ジリ貧のインテル、生き残りかけ「謎の」買収 半導体業界、「異端児」台頭で革命的変化
インテルのCPUは、ノイマン型といわれ、メモリに格納されている命令を演算回路が逐次実行し、その演算結果をレジスタやメモリに格納するということを、複雑な制御回路を用いて繰り返す。その結果、エネルギー効率は200pJ/opと最も悪い。一定の計算に特化したDSP(今ならGPUもこの分類に入ろう)では、CPUより演算のロスが少ないため、60pJ/opと、CPUの3倍程度のエネルギー効率となる。
ASICでは、制御回路やメモリがなく、演算回路が直接結線されている。データだけが、数百段のパイプラインを流れていくようにできれば、無駄を最小化できる。その結果、単体の演算回路そのものの2pJ/opに近いCPUの百倍のエネルギー効率が実現できるはずである。しかし前述したように、マスクやプロセス開発費が最も高く、プログラマビリティはないため一度つくってしまった後の変更ができず、リスクも高い。
一方、FPGAでは演算回路をプログラムでつなぐ。そのエネルギー効率はASICよりおよそ1桁悪いと考えられるが、20pJ/opで、CPUよりは一桁良い。しかも、製造後に何度でもプログラムを修正できる。
結局、FPGAはCPUよりエネルギー効率が良いこと、ASICに対してはエネルギー効率で1桁劣るがプログラマビリティがあって使いやすく、初期開発コストやリスクを軽減できることなどが決め手となって、現在注目されるに至っている。
FPGAの今後の展望
コスト、性能、エネルギー効率、使いやすさなどが最先端のデータセンタの要求とマッチしたために、FPGAにスポットライトが当たるようになったといえる。
インテルは、アルテラを買収することによりFPGAの技術を手に入れた。この技術を生かせば、もともと強かったインテルのデータセンタ事業はさらに強化されることになる。また、FPGAはASICを代替し続けていることから、インテルにとって新たなビジネス分野に進出することも可能だ。インテルは「良い買い物」をしたといえよう。
さらに、スーパーコンピュータについてはトップ10機種までのプロセッサをNVIDIAのGPUが占めているが、この分野にもFPGAが進出する可能性がある。小池氏によれば、10年ほど前に、スパコン用のアクセラレータとしてGPUとともにFPGAが検討されていたこともあり、性能的にはどっこいどっこいとの評価結果だったそうだ。
その際に問題となったのは、FPGAのプログラミングに多大な時間がかかるということだったらしい。もしこれが解決できれば、スパコン用のプロセッサとしても、FPGAが使われるかもしれない。
半導体の国際学会では異端児扱いされてきたFPGAが、一躍脚光を浴びている。FPGAの時代が到来したといえよう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)