ジリ貧のインテル、生き残りかけ「謎の」買収 半導体業界、「異端児」台頭で革命的変化
なぜインテルはアルテラを買収したか
半導体業界では2015年に入って、大型のM&A(合併・買収)が相次いでいる。そのなかでも米インテルがFPGAメーカーの米アルテラを買収したことが、ずっと気にかかっていた。FPGAとはField Programmable Gate Arrayの略で、チップを製造した後にプログラムが可能な半導体デバイスであり、米ザイリンクスと並んでアルテラが世界の2強である。
インテルは、PC用プロセッサがジリ貧、スマートフォン(スマホ)用プロセッサは大赤字、データセンタ用プロセッサが唯一、稼ぎ頭で基幹事業となっている。ところが、2014年に米マイクロソフトが検索エンジンBingの高速処理のためにFPGAを導入するなど、データセンタ用プロセッサとしてFPGAが急浮上してきた。
インテルのプロセッサとFPGAで電力当たりの性能を比較した場合、検索処理では約10倍、複雑な金融モデルの解析では実に約25倍もFPGAのほうが高いという。このままいくと頼みの綱であるデータセンタ事業も失う可能性があり、インテルとしては生き残りのためになんとしてもアルテラを買収しなくてはならなかったのである。
しかし、なぜFPGAはインテルのCPUより電力当たりの性能が1桁も優れているのだろうか。そもそも、なぜ単純に処理速度を比較せず、電力当たりの性能を比較するのだろうか。 そして、このような事態が急浮上してきたのはなぜなのか。
これらの疑問を解決するために8月中旬、産業技術総合研究所(産総研)に在籍しているFPGAの専門家に教えを乞うことにした。
表に出てこなかったFPGA
筆者が訪ねたのは、産総研ナノエレクトロニクス研究部門のエレクトロインフォマティックスグループ長で、10年以上FPGAを研究している小池汎平氏である。
小池氏によれば、FPGAは突然浮上したのではないという。たとえば、マイクロソフトは10年以上も前からFPGA関係の学会で活躍していて、その人脈が検索エンジンBing用のFPGAの開発につながっているし、インテルも随分前からFPGAのベンチャーを買収しようと物色していたらしい。
では、なぜそのような動きが半導体業界に聞こえてこなかったのか。それは、どうやら半導体業界においてFPGAが異端視されていることに原因があるようだ。
たとえば、ISSCCやVLSIシンポジウムのような半導体の国際学会には、FPGAの発表がほとんどない。その理由を小池氏に聞いてみると、プロセッサやメモリなどの専門家が多数を占める半導体の学会は、FPGAの技術への関心が薄かったのではないかとのこと。その結果、FPGA関係者の主流は、ACM(Association for Computing Machinery)などコンピュータやCADソフト技術を中心とした学会に参加するようになっていったという。