ふたつの信頼概念
『信頼の構造:こころと社会の進化ゲーム』(山岸俊男/東京大学出版会)では、信頼には2種類あることが指摘されています。それは、相手の「能力」に関する信頼と、「意図」に対する信頼です。
能力に対する信頼とは、たとえば、「この企業はコンピュータをつくる十分な能力を備えている(だろう)から、この会社のパソコンは信頼がおける」と考えるような事態です。また、意図に対する信頼とは、「この企業は環境問題に対して積極的な姿勢を持っており、取り組みは本物だ」と評価するような例が挙げられます。
注意すべきは、こうした能力や意図に対する信頼も、なお不完全な推論にすぎないということです。たとえば、上記の能力の説明で挙げたパソコンの例に関連していえば、1981年当時、IBMが発売した最初のパソコンの基本的部分であるオペレーティングシステム(OS)やマイクロプロセッサ(MPU)は、開発期間短縮化の意味もあり、それぞれマイクロソフトやインテルに依存していました。したがって、「IBMは汎用コンピュータをつくれる会社なので、PCも自社で容易につくる能力がある」とする推論は必ずしも正しくないのです。しかし、重ねていえば、私たちはこうした論理を使わずにはいられないのです。
能力への信頼
ではブランドへの信頼を築くため、このふたつの信頼概念を用いて、どう考えればよいでしょうか。必ずしも実験などで実証されているわけではありませんが、次のようなことが言えるでしょう。
・能力への信頼…構築は比較的容易、失われやすいが回復しやすい(例:松下電器産業)
・意図への信頼…構築は比較的困難、ごく短期で失われる(例:雪印乳業)
ブランド能力に対する信頼は、より容易に築くことができる一方、ブランド意図への信頼は築くのがより難しい。またブランド能力への信頼は、いったん失われても回復することは比較的容易だが、ブランド意図への信頼は失われたとき再び築くことは難しいのです。
これはどういうことでしょうか。
まずブランド能力に関する信頼です。ブランドあるいは企業の能力に対する信頼は、消費者が実際にその商品を使って経験することによって、容易に納得してもらえます。実際は、消費者が企業の専門能力に関して判断することは難しいのです。しかしながら、消費者に商品やサービスの良さを実感してもらえば、「この企業にはこうした能力がある」と感知してもらうことはさほど困難なことではありません。サンプリングやイベントなどコストはかかるにせよ、消費者の実感を通じたコミュニケーションは有効に働きます。