独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題が世間をにぎわせています。少し前には東芝の不正会計問題が話題となりました。さらにその前には、日本マクドナルドで異物混入が問題になったことがありました。どの事件も、企業のブランド価値を毀損するような大事件であると報道されています。
英調査会社ブランド・ファイナンスは、VWのブランド価値はすでに100億ドル(約1兆2000億円)毀損したと発表しています。不正発覚前にVWのブランド価値は310億ドルだったので、すでに3割近いブランド価値が失われたことになります。
ブランド価値を毀損するとは、どのようなことでしょうか。といっても、ブランド価値の毀損とは幅広い概念です。そこで、手始めにブランドの価値の基礎をなすと考えられる、「信頼」について考えてみることにします。
信頼は、ある研究者によれば次のように定義されています。
「他人の意図や行動に対するポジティブな期待を基に、相手を受け入れようとする意思」(『Handbook of Trust Research』McEvilyほか)
つまり、相手である他人が、「私に対して悪いことはしないだろう」と考えて、相手を受け入れることを意味しています。
消費者でいえば、「その企業は、私にはまさか悪いことはしないだろう」というのが信頼です。普通、こうした判断は、それまでの経験に基づいてなされることが多いのです。たとえば、「これまで100回、彼・彼女は私に良いことをしてくれたので、101回目も良いことをしてくれるだろう」と考えるのが信頼なのです。
少しややこしい議論になりますが、それまでの経験による判断は「帰納論理」であるがゆえに、論理として正しいとはいえません。帰納論理とは、過去の事例を積み重ねて、ある結論を導く論理のことです。ちなみに、帰納の対語は演繹で、論理を重ねて推論する、より合理的方法と考えられています。
20世紀の哲学者ウィトゲンシュタインは、次のように言っています。
「太陽が明日も昇るというのは仮説にすぎない。すなわち、我々は、太陽が明日昇るかどうかを知ってはいないのである」(『論理哲学論考』より)
昨日まで太陽が朝昇ったからといって、明日も太陽が昇るという保証はない。なぜならば、太陽が突然爆発して消滅しないとはいえないからです。最近の日本の火山の爆発事故などを見ていると、さほど馬鹿げた議論とも思えないのではないでしょうか。