その企業に不祥事があったとします。当然その企業の評判は下落します。しかし、その企業の持つ能力についての評価は不正行為だけではあまり変わらないことが多いのです。これまでに不正行為を働いたと伝えられた大企業はかなり多いのですが、その能力への評価はすぐに全面的には失われない傾向にあるのです。たとえば、東芝が不正会計を行ったと知ってその意図に怒ったとしても、東芝の持つ能力自体には大きな評価の変化は起こりにくいでしょう。
意図に対する信頼
本連載前回記事『ソニー、アバクロ…強いブランドが企業を滅ぼす?過剰な慢心=「全能感」病の罠』にも書きましたが、2000年には雪印乳業が集団食中毒事件を起こしました。約1万5000人が被害を訴えた戦後最大級の食中毒です。
この事件では、雪印乳業の記者へのまずい対応が問題になりました。記者会見の席で、質問を受けた工場長が「これくらいの汚れ(乳固形物)でした」と指で輪をつくって見せたのです。「少々の汚れは気にしない」とでも言わんばかりの態度であり、そのとき石川哲郎社長は記者の前で顔を赤らめて「それは本当か!」と工場長を指さして叫びました。この状況は、バルブに汚れがあったことを示しただけでなく、工場長から報告がトップに上がっていなかったことも明らかにしてしまったのです。この様子はテレビを通じて全国に放送されました。
さらに、石川氏は記者会見を早めに切り上げ、会見延長を記者に詰め寄られながらエレベーターに乗ったとき「私は寝ていないんだよ!」と発言し、これも大きく取り上げられました。結果、クリーンで純粋なイメージだった雪印ブランドの評価は大きく下がり、その後の牛海綿状脳症(BSE)問題、雪印牛肉偽装事件も重なり、ついには雪印乳業という企業グループは解体されてしまいました。
こうした流れは、ブランド意図への信頼を傷つけた事件として考えられます。この事件に象徴されるように、ブランド意図への信頼は短期間に損なわれ、回復が困難であることを物語っています。つまり、企業はいったん「邪悪な考えをもった企業だ」と認定されてしまうとそこからの名誉回復は難しいのです。
しかも、この雪印の事件は、よく見るとトップのマスコミへの対応の悪さだけから生じたわけではありません。もともとは雪印乳業の牛乳の製造での安全管理に問題があったことが原因です。ということは、この事件ではブランドの意図への信頼が揺らいだだけでなく、ブランド能力の問題も同時に問われていたのです。