不祥事の元凶は日本郵便の2トップ
日本郵政グループ3社の社長に一斉退陣論が出ているが、事はそう簡単ではない。植平氏の退任はほぼ確実だが、「植平氏一人のクビでは収まらないだろう」(政府関係者)という状況下にある。第三者の調査委員会が、年内をめどに報告書をまとめる。それを受けて行政指導を行い、植平氏のクビを差し出すという流れまでは、ほぼ固まっている。
それまでの間に後任を探すのだから、かんぽ生命の後任は見つかるだろうとみられている。そもそも、植平氏は長門氏が連れてきたため、“トカゲの尻尾切り”もしやすい。
今回の不祥事の本当の“がん”は、日本郵便の2トップにあるといわれている。かんぽ生命の個人向け保険を実際に販売しているのは、日本郵便が運営する全国2万局を超える郵便局の局員だ。郵便局では、ゆうちょ銀行の貯金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に売っていた。日本郵便がゆうちょ銀行、かんぽ生命から受け取る業務委託料は年間1兆円に上る。
日本郵便の横山社長は住友銀行出身。大沢誠副社長は、全国郵便局長会の会長を務めた後、3年前に日本郵便の執行役員に就いた。「数字(営業)最優先を現場(郵便局員)に厳しく求めた。住友式のノルマ営業を、たいした教育もせずに郵便局員に強いた」(日本郵政の元幹部)との批判の声もある。
だが、「横山氏は本音のところでは反省していない。ノルマの何が悪い、という考え。本人は、責任を取る気はさらさらない」(日本郵便の現場の中間管理職)と指摘されている。
日本郵便は15年、基本給の12%を削減し、営業実績で増減する営業手当の割合を増やした。そのため、無理な営業をするようになり、不適切な販売を助長する一因となった。
日本郵政グループ労働組合(JP労組、増田光儀・中央執行委員長)は、熊本市で全国大会を開いた。大会では、日本郵便とかんぽ生命の渉外営業社員らを対象に、収入減を補う緊急手当を会社側に求めることを決めた。
渉外社員のインセンティブ(報奨金)は「中央値で年収の25%」に達している。新規契約が止まるだけでなく、不正販売の大量解約が予想される。新規契約が2年未満で解約されると報奨金を返納しなければならないルールがあるからだ。月給が半分以下になる郵便局員やかんぽ生命の社員が出る可能性もある。そうなれば、住宅ローンを払えなくなる困窮者が続出することになる。深刻な事態だ。
横山氏は「労組が、インセンティブが激減して困っていることを逆手に取って、組合とうまく手を握り、郵政族議員も巻き込んで居座りを図る」(前出の日本郵便の管理職)といった情報が駆け巡っている。
日本郵政の長門氏も、「自分は知らなかった」として逃げ切ろうとしている。実際、日本郵政のトップも日本郵便の社長も、やりたがる人はおらず、後任者選びは簡単ではない。それが、長門氏と横山氏が責任を取らずに居座れる背景になっている。
金融庁、かんぽ生命、日本郵便本社に立ち入り検査
金融庁は9月11日、かんぽ生命と日本郵便の立ち入り検査を始めた。金融庁は過大な販売目標が不正の温床になったとの見方を強めており、内部管理に不備があったと認められれば行政処分を検討する。郵政グループは経営体制の見直しを迫られることになる。
金融庁は、かんぽ生命に報告徴求命令を出し、問題となった郵便の販売行為について調査を進めてきた。今後は、保険業法に基づく検査となり、かんぽ生命本社などに検査官を派遣した。日本郵便では本社のほか、必要に応じて各地の郵便局でも担当者の聞き取りを行う予定だ。
保険業法では、販売時に契約者に虚偽の情報を伝えたり、不利益となる事実を告げずに乗り換えを勧めたりする行為を禁止している。法令違反に該当する事案が一定規模で認定されれば、経営陣の説明責任が問われる。
かんぽ生命の不正をめぐっては、外部弁護士による特別調査委員会が全容解明に向けた調査を始めており、年内にも報告書を出すことになっている。
「日本郵政グループは菅義偉官房長官の“天領”」(永田町筋)といわれている。自浄能力のない日本郵政グループの首脳人事に、菅官房長官がどんな判断を下すのかが注目される。
(文=編集部)