この数年、羊がブームとなっている。特に東京では、渋谷、恵比寿、六本木などを中心にラム肉を提供する専門店が増えている。そのなかでも人気を集めているのが、港区麻布十番にあるレストラン「羊SUNRISE」だ。今年11月でオープンから3年を迎える「羊SUNRISE」だが、人気のあまり3カ月先まで予約が取れない状況である。その人気の秘密をオーナーの関澤波留人氏に聞いた。
深い羊愛
建築関係の会社でサラリーマンをしていた関澤氏とラムとの出合いはジンギスカンだった。
「20代のときに狂牛病が問題になったことでジンギスカンの店ができ、目新しさから食べてみたら、ラムの美味しさに魅了されました。それをきっかけにジンギスカンの店を食べ歩きました」
2004~06年頃にBSE(牛海綿状脳症)問題で牛肉の輸入が制限され、多くの焼肉店が業態変換を余儀なくされた。そこで食肉業界が売り出したのがラム肉だった。当時、食肉業界のプロモーションが功を奏し、ジンギスカンブームが巻き起こったのだ。
「ジンギスカンの店を食べ歩くうちに『ラム肉』をさらに探求したくなり、日本全国のラム肉を提供する店を食べ歩き、最初のジンギスカンとの出会いから10年で100店舗以上を食べ歩きました」
日本全国のラムを食べ歩いた関澤氏が思い描いたのは「ラムを提供する店を自らつくる」ことだった。32歳で会社を辞めて独立の準備を始めたが、その際に関澤氏がとった行動に驚く。
「日本でラムといえば、やはり北海道。しかし、北海道の羊飼いのリストや情報はなく、考えた末に車中泊をしながらクルマで北海道全域を周り、羊飼いを見つけたら一軒一軒訪ねて話をしました」
そこで関澤氏は、羊飼い一人ひとりにそれぞれの「羊飼いとしてのストーリー」があることを知った。それぞれに違ったストーリーを持つ羊飼いに学ぶことが多かったという。そんなさまざまなバックグラウンドを持つ羊飼いたちも、「羊への愛」は共通であることに感動を覚えた。
「羊飼いを知る程に私も羊への愛が深くなるばかりでした。だから私は飲食店を経営しているという意識ではなく、愛する羊を多くの人に知ってほしい、味わってほしい、そのために羊の肉を可能な限り良い状態で提供するにはどうしたらいいか、ということを第一に考えています」
羊後進国日本
日本でのラム肉の消費量は諸外国に比べて極端に少なく、ラム肉を食すことはまだ一般的とは言いがたい。
「日本人が1年間で食べるラムの量は、1人当たりわずか200グラム。オーストラリアは9キロ、世界基準では6キロといわれます」
2018年の総務省統計局による国別の飼育頭数で比べると、日本は150位前後で、羊飼育頭数はわずか1万4000頭である。上位3カ国は、中国、オーストラリア、インドである。