本連載前回記事では、中小企業のM&A(合併・買収)の機会が増えることが予測されるなかで、中小企業が仲介会社や買い手候補の企業群からは相手にされない実態が生まれるメカニズムについて説明しました。今回は、中小企業のM&Aをとりまく環境に関して最近起こっている変化についてみていきたいと思います。
長らくM&Aを仲介する市場は売り手も買い手も仲介会社・アドバイザーも大手で、大口取引が中心でした。しかし時がたち、徐々に大手や中堅から個人・少人数で独立して、またそこから独立してといったかたちで仲介会社が増えてきました。法人数が増えると大口取引にプレーヤーが集中して、競争が激しくなります。すると、小口取引の市場を対象にするプレーヤーが少しずつ出てくるようになりました。つまり、中小企業を対象とした領域でも市場が形成されつつあります。
ただ、潜在的なものも含めたニーズの多さには、追いついていない状況にあります。つまり、市場はまだ発展途上にあります。そのため、仲介者の評価を知る手立てがないこともあり、売却希望の会社にとっては、最初に接点を持った仲介会社や担当者を間違えると、理想的な結果へ向かわなかったり、本来自分たちが希望する優先順位を忘れたまま契約したり、過剰に報酬を取られる状態が出てくるリスクがあります。
仲介会社に依頼してすぐに売り手が現れたものの、どこまでの情報を確認すればいいのかわからないまま話が進んでいき、なんとなく「そんなものなのかな、ほかに選択肢があるわけでもないのかな」と思い込んだまま判断してしまい、最終的に良い機会が失われてしまうようなリスクです。妥当な売却価格がどれくらいなのか、何を基準に判断するのか・されるのか、スケジュールはどう考えればいいのか、どんなリスクを遮断しておくべきなのかなど、初めてのことであれば誰に相談するかは非常に大事になってきます。
●経済合理性なくとも納得感が重要
大口取引の世界では、良くも悪くもなかなか買収価格に感情は入りません。コンペに勝つためにあえて高値で買うケースもありますが、事業上のシナジーやブランド価値の理論値を計算したうえで、それによって得られる利益を超えない範囲に収めます。組織の中で意思決定するため、価格を上げようとしても合理性に排除されます。