つまり、M&Aの成否は相当に仲介者それぞれの力量や良心に委ねられているところがあります。ともすれば売買の成立が優先され、買い手や売り手のネガティブ情報を隠したりすることもできてしまいます。一方的に売り手や買い手に有利な状況であったり、大きなリスク抱えながらも売買が成立しているような状況も生まれかねません。
供給に対して需要が増えつつあるために、仲介者は皆忙しくしています。いくら実態としては売り手と買い手の交渉に大きな影響を及ぼさない話題であっても、交渉の場には参加しなければならないため、時間的拘束も長くなってしまいます。仲介会社が忙殺されることで、個別の交渉の進捗が遅れるリスクも出てきかねません。
また、案件を早く成立させたいがためにクライアントの利益を第一に考えない行動を取る仲介会社も出かねません。極端な例では、法律や会計財務に疎いオーナーに、新しい資金の入れ方や議決権のあり方についてメリットやデメリットを十分に説明しないまま、とにかく話が早くまとまる形を勧めることもできてしまいます。
そうした「情報の非対称性」が大きく存在する状況は、現在のように十分なインフラが整う以前の不動産市場、中古車市場や転職人材市場などに似ているのかもしれません。しかし、不動産取引などと比べて、企業のM&Aはやり直しが困難なため、タイミングや買収条件がより重要になってきます。まさに組織は人なり、会社は生き物であるため、旬を過ぎたり変な条件がついたりすると、買収後の企業の成長を大きく阻害します。
以上、ネガティブな側面を中心に述べてしまいましたが、基本的には参加者が増えてくることで市場に競争原理が働き、サービス品質が底上げされたり、仲介手数料が徐々に下がったり、売り手と買い手の接点が増えたりすることは、買い手と売り手双方にとって良いことであることは間違いありません。
人口構成を考えると事業承継、後継者不足の問題は今後小さくなることはありません。前回・今回とみてきた問題を認識してか、売却したい企業の内容や要望によって適した仲介者を紹介するというサービスを行っている会社も出てきているようですし、今後数年で大きく動いていく市場なのかと思います。著者もそうした市場の関係者とは企業規模問わず幅広く接点がありますので、どのようなかたちでかかわっていけるかというのを最近はよく考えるようになりました。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)