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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

スタバ、「1500店超え」でもサービス品質落ちない“驚異の人材教育”…直営店率9割

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
スタバ、飲食店業界初の1500店超えか…コメダと真逆の経営、直営店率9割超の裏側の画像1
中目黒「ロースタリー 東京」店内にある「プリンチ」で働くスタッフ

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 まだ正式に発表されていないが、スターバックスコーヒーの日本国内の店舗数が「1500店を超えた」と耳にした。

 1996年に日本1号店を東京・銀座に開業して以来、23年での達成で、喫茶業界としては史上初だ。近年は年間100店を超えるペースで増え、拡大基調に転じている。ここまで店舗数を拡げたことには敬意を表するが、ビジネス目線では喜んでばかりもいられない。まずは少し引いた観点から説明しよう。

 国内は少子高齢化が進み、就業人口も年々減少している。「働き方改革」が言われ、従業員を不当な労働条件で酷使する“ブラック企業”には厳しい目が注がれる。

 そうしたなかで、従業員の就業意欲を高めつつ、「スターバックスブランド」をどう維持していくか。今回は、あまり報道されることのない、同社の人材育成の取り組みを具体例で紹介したい。

国内約1500店のうち92%が直営店

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「スターバックスコーヒー 福岡大濠公園店」(福岡県福岡市)の外観

 以前も当連載で紹介したが、国内における大手カフェチェーン店を別の数字から考えたい。店舗数で500店を超えるのは次のブランドで、いわば「4大チェーン」だ。

・4大チェーンの店舗数と直営店率

※以下、店名:国内店舗数、直営店数(店舗数に占める割合)

(1)スターバックス コーヒー:1497店(9月30日現在)、1377店(約92%)

(2)ドトールコーヒーショップ:1106店(11月30日現在)、189店(約17%)

(3)珈琲所 コメダ珈琲店:849店(8月末現在)、詳細は開示せず

(4)タリーズコーヒー:741店(12月2日現在)、詳細は開示せず

 店舗数でも競合を圧倒するスターバックスだが、今回注目したいのは直営店率。この数字が圧倒的に高いのだ。

 ちなみに非開示のうち、コメダ珈琲店の直営店率は数%にすぎない。スタバとは真逆に90%台後半が加盟店(フランチャイズチェーン=FC店やボランタリーチェーン店)だ。タリーズコーヒーは、直営店とFC店が半数ぐらいの割合と聞く。

 これは何を意味するのか。加盟店が多いチェーンは、店長や店舗スタッフなどの人材開発(雇用して育てる)を、本部ではなく相手先企業(や個人店)が担う。最近、よく話題となるコンビニ本部とFC店の関係に近いが、大手カフェチェーンは本部主導で店舗スタッフの研修を行うことも多く、もう少し親密な関係だ。

「やる気」につながる、3つの取り組み

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中目黒「ロースタリー 東京」店内にある焙煎所で働くスタッフ

 一方、直営店が9割超のスタバは、その取り組みを自社で行わなければならない。

 独特な言い回しも持ち味の同社は、「人材開発」のような人事用語を表立っては使わない。よく用いられるのは「コーヒーパッション」(情熱)だ。社内では「高いレベルでのコーヒーエデュケーション(教育・育成)の実践」を掲げる。

 現在の取り組みを3つ紹介しよう。

(1)中目黒「ロースタリー 東京」で新業務に従事

(2)社内「バリスタ競技会」を開催

(3)「ブラックエプロン」と「コーヒーセミナー」

 2019年2月28日に開業した、東京・中目黒の「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」は、さまざまな意味で同社のターニングポイントとなった。たとえば、パートナー(同社は全従業員をこう呼ぶ)のやる気を高めたのも、そのひとつだ。

「この店では、コーヒー豆の焙煎やイタリアンベーカリー『プリンチ』での焼きたてパンの提供など、これまでになかった業務もあります。そこで社内各部署から希望者を募り、適性を見極めた上で配属もしました」(スターバックス コーヒー ジャパン広報)

 筆者も今年、同店を何度か取材した。取材時は会えなかったが、前年に北海道の店舗で取材した従業員も「自ら希望して」中目黒の同店に異動したと聞いた。

「バリスタ競技会優勝者」の商品開発

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8月22日「競技会」で優勝した間惣檀さん(中央) (画像提供:スターバックス コーヒー ジャパン)

 8月22日、東京都内で「コーヒーアンバサダーカップ」と呼ぶ競技会が行われた。同社の従業員がコーヒーの技術を競う、社内競技会の決勝大会だ。2000年に日本で始まり、現在は世界各地域でも実施される。

 参加したのは、国内各地区の予選会を勝ち抜いた3人。昨年の同大会も取材したが、決勝進出者は17人おり、今年はファイナリストの人数を絞った。

 大会の参加者は、普段は国内各店舗で勤務する。一般に店舗スタッフの多くは「グリーンエプロン」(緑色のエプロン)を着用して接客するが、なかには黒い「ブラックエプロン」で接客するスタッフもいる。参加者はブラックエプロン保持者で、ファイナリストはその代表だ。学生アルバイトも参加でき、17年の大会では男子大学生が優勝した。

 今回の競技内容は2つあった。ひとつは実際の接客シーンをイメージして行う「リテイルコミュニケーション」。もうひとつはドリンクの完成度を競う「バリスタクオリティ」だ。ハンドドリップ、ラテアート、オリジナルコーヒー創造性の3点から審査された。

 優勝して「コーヒーアンバサダー」となったのは、東海地区エリア内店舗の店長である間惣檀(あいそう・まゆみ)さん。20年春には、間惣さんが開発したドリンクが全国の店舗にて期間限定で発売予定だ。つまり、店舗スタッフでも、成果を上げれば商品開発にも携われるのだ。

「ブラックエプロン」と「コーヒーセミナー」

 企業としてのスタバの強みは「ブランドが好き」「コーヒーが好き」という従業員が多いこと。グリーンエプロンの店員にとって、ブラックエプロンは憧れの存在だ。

 ブラックエプロンは、年に1度、コーヒーに関する幅広い知識、コーヒー豆の特徴などを問う試験を実施し、合格者だけに与えられるものだ。受験者も合格者も、ほぼ右肩上がりで増えている。役員や本部社員も受験でき、合格すれば保持できる。

「2009年は1万1641人が受験し、合格者は412人(合格率3.5%)でしたが、2019年は1万6786人が受験して1922人が合格(同11%)と、パートナー(従業員)のコーヒーへの関心度は高まっています」(同)

 1回の合格者数は10年で4倍以上になったが、難関の試験だ。たとえば、ブラックエプロン保持者は、全国各地で行われる「コーヒーセミナー」のファシリテーター(進行役)にもなれる。管理職よりも専門職を希望する従業員にとって、こうした活動も魅力的なようだ。前述の「コーヒーエデュケーションプログラム」ステップの真ん中にも「ブラックエプロンバリスタ」が位置づけられる。

「スタバ」ブランドが輝き続けられるか

 10年以上前になるが、スタバが全国に店舗数を拡大させた時期、筆者は当時の広報担当に対して、失礼を承知で次のような質問をした。

「都心部を中心に店舗数を広げてきたが、最近は地方進出も目立ちます。小売店でいえば、(オシャレ感のある)バーニーズ ニューヨークが、(地方で目立つ)イオンになっているように見えます。店舗イメージをどのように考えていますか」

 これに対する広報担当者の答えは、次のようなものだった。

「そうした意見もあるでしょうし、お客さまから『サービスが雑になった』とお叱りを頂くこともあります。それでも、店づくりを進化させるのは店舗や運営側のパートナーです。結局は人材育成に尽きるのです。お客さまのなかには『スターバックスの店を見るとホッとする』という人もいます。厳しいご意見にも耳を傾け、期待に応えられる店づくりをめざしたい」

 あえてこのやりとりを紹介したのは、顧客の期待感をほとんど落とさず、ここまで店舗数を拡大させたからだ。そこは素直にリスペクトしている。

 今年、ラーメンチェーン店やステーキ店など、外食チェーン店の「大量閉店」も何度か報じられた。個別の事情はあるだろうが、各ブランドのイメージは低下した。

 日本の喫茶業界にさまざまな刺激を与えたスタバが、今後も輝き続けられるのか。引き続き注視していきたい。

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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