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製薬会社と医師は癒着で多額利益、臨床研究の不正事件で数千億円の医療費が無駄に

文=奥田壮/清談社
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厚生労働省本省庁舎(中央合同庁舎第5号館)(「Wikipedia」より)

 昨年4月に出版された『知ってはいけない薬のカラクリ』(小学館新書/谷本哲也著) が大きな反響を呼んでいる。製薬会社医師の癒着の実態が詳細に描かれており、「医者は食事接待で処方箋を決める」「大学教授は製薬会社の“広告塔”である」などと、衝撃的な見出しが並ぶ。

 執筆したのは、現役医師の谷本哲也氏。製薬会社と医師の癒着によって患者が不利益を被っている現状に、医師自らが声を上げたのだ。

世界の医学史に残る「ディオバン事件」とは

「製薬会社と医師の関係性は双方ともにメリットが大きいため、歯止めがかかりにくい構図です。そのため、一歩間違うと容易に癒着に陥ってしまいます。高額な新薬を売れば製薬会社が儲かるのはもちろんのこと、その薬にかかわる医師は新薬のエキスパートと持ち上げられ、講演会などでの副収入も入ってきます。その一方で、患者は余計な薬を処方されたり、必要以上に高価な薬を飲まされたりするケースが後を立ちません」(谷本氏)

 製薬会社と医師の癒着が暴走した代表的な事例が「ディオバン事件」だ。スイスに本社を置く製薬大手ノバルティスの日本法人であるノバルティスファーマの社員が医師との共同研究で、高血圧の治療薬「ディオバン」の臨床研究データを改ざんしていたことが2013年に発覚した。

「世界でもっとも影響力のある医学専門誌のひとつ『ランセット』に発表された東京慈恵会医科大学の臨床研究をはじめ、名古屋大学や千葉大学など多くの有力大学のディオバンに関する研究に不正があり、論文が撤回されました。これは、日本のみならず世界の医学史に残る一大スキャンダルと言えます。ねつ造した研究データに基づいて、ディオバンは血圧を下げるだけではなく心筋梗塞や脳梗塞など血管の病気の予防にもなると喧伝されて処方されたので、数千億円の医療費(税金など)が余分に使われていたという見積もりもあります」(同)

 ディオバン事件は、医学界の盲点を巧妙に突いた前代未聞の巨額詐欺だという。

「医療費抑制が叫ばれる中、日本全体で巨額の医療費が無駄に使われてしまったわけです。ところが、日本は国民皆保険というのもあり、一人ひとりの患者さんにとっての金額的損害が少なく、正確な被害状況が見えづらい状況です。さらに、当時の法律ではノバルティスファーマの元社員を裁くことも難しいようで、刑事事件として裁判で争われていますが、一審・二審ともに無罪となっています。最高裁でも無罪となれば、いわば“完全犯罪”の成立といえるのかもしれません」(同)

 不正事件を受け、再発を防ぐために2018年4月から新たに臨床研究法が施行された。

「この法律により、臨床研究のための手続きや監視が複雑化し、確かに不正は起こしづらくなりました。しかし、事件の根本的な動機、拝金主義的な業界の体質自体は手付かずです。実際、19年12月にも、製薬会社などから3年間で約1億円の講演料などを受け取るマネーロンダリング行為をしていたのが露見し、旭川医科大学の教授が懲戒処分されました。これは氷山の一角で、薬の使い方や値段を決める厚生労働省の審議会委員などでも、当たり前のように製薬会社から謝金を受け取る状態が続いています」(同)

がん免疫薬「オプジーボ」大幅値下げの裏側

 そもそも、新薬(先発薬)の価格の決め方にも問題があるという。

「がんの免疫薬『オプジーボ』の発売当初の薬価は1瓶(100mg)当たり約73万円でした。高額な薬価に批判が集中したため、2017年2月には半額以下の36万円に下がり、18年11月には当初の4分の1以下の約17万円まで薬価が下がりました。発売時の薬価が製造流通費用など原価に基づく正当なものであれば、世間でいくら批判されたからといって、そう簡単に下げられるはずはありません。これは、もともとの薬価が不当に高額だったからこそ、世論の反発を鎮めるという理由で、すぐに大幅値下げすることが可能だったといえるでしょう」(同)

 新薬の価格が高額になるのは、それだけ莫大な開発費用がかかっているからともいわれるが、どうなのだろうか。

「開発費用といえば聞こえがいいですが、すべてが企業だけの成果だとは言い切れません。薬の開発につながる基礎的な研究費用は、日本を含め世界各国の政府から拠出されています。そのような税金を使った研究を利用して薬をつくる場合、高額な薬価はどこまで正当化できるでしょうか。また、新薬につながる特許を持つベンチャー企業を大手製薬会社が単に買収しただけのケースもあり、買収のマネーゲームにかかった費用が新薬の価格に上乗せされているとも言われています」(同)

 さらに、薬価が決められる過程は公開されていないため、問題になっても外部からは検証すらできないという。

「日本の薬価は厚生労働省が管轄する『中央社会保険医療協議会(中医協)』が決定します。中医協の下に薬価算定組織が設置され、具体的な作業を進めますが、算定組織の委員は非公開で議事録もありません。事後に算定の過程が適切かどうかを客観的に検証することは不可能です。また、先ほど触れたように、薬価算定組織には製薬会社から多額の謝礼を受け取っている委員もいます。公的な組織にもかかわらず、製薬マネーが流れ込んでいるのです」(同)

広告費でメディアの“沈黙を買っている”製薬会社

 製薬マネーはメディアにも流れているため、こうした問題は表面化しづらいと谷本氏は警鐘を鳴らす。

「マスメディアが主催する医療や病気に関するシンポジウムでは、製薬会社が重要なスポンサーになっていると指摘されています。マスメディア主催のため、公平で中立に見えますが、実態は製薬会社によるステルスマーケティングまがいの販売促進のケースもあります。オールド・メディアと呼ばれる新聞やテレビなどのマスメディアは、製薬会社からかなりの広告費を受け取っていると考えられますが、その規模や実態は公開されていないのでわかりません。

 さらに、マスメディアの中でも温度差があり、製薬マネーの問題を積極的に取り上げているのは、東京新聞や毎日新聞、西日本新聞、東洋経済、ウェブメディアなど、製薬会社の影響力が大きくない媒体ばかりです。その一方で、日本経済新聞や朝日新聞、読売新聞、民放各社などは沈黙しています。こうしたメディアでは、スポンサーに不利になる余計なことを言わないよう、製薬マネーによって“沈黙が買われている”とも言えるでしょう」(同)

 製薬会社から医師へ渡る謝金などの実態は、調査報道組織のワセダクロニクルと谷本氏が所属する医療ガバナンス研究所の共同プロジェクトであるマネーデータベース「製薬会社と医師」で、簡単に知ることができる。同様の取り組みは米国やヨーロッパ諸国など、世界的にも進められている。

「製薬会社と医師が協力しなければ新薬は生まれませんし、適切な治療を患者に届けるのも難しくなります。利益相反とも呼ばれる製薬会社と医師の関係は、適切なものであれば産学協同の輝かしいプロジェクトと称されます。しかし、行き過ぎれば、ただの癒着になってしまいます。要は節度の問題で、製薬会社と医師の関係はガラス張りの透明性を担保すべきです。マネーデータベース『製薬会社と医師』は無料で誰でも利用できるので、社会の公共財として、ぜひ活用してもらいたいです」(同)

 製薬会社が医師に提供する金銭も、元をたどれば税金や保険料。製薬マネーと医師の関係を注視しなければ、社会全体の不利益につながる。「世界でも恵まれた日本の保険制度を維持するためにも、もっと多くの人が、この利益相反の問題に関心を持ってもらいたい」と谷本氏は話す。

(文=奥田壮/清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

『知ってはいけない薬のカラクリ』 「あなたのツライ症状にすぐ効く、よく効く」――かぜや花粉症の市販薬のコマーシャルはよく目にするのに、医者が処方する薬のCMがないのはなぜか? かかりつけの医者は、どんな基準でどのようにあなたの薬を選んでいるのだろうか? 副作用のある薬を一服する前に、「薬のカラクリ」の一読を。 amazon_associate_logo.jpg

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