独身隆盛、マス消費消滅、多様すぎる価値観…「正当な理由」がないと買わない消費者たち
本連載前回記事において、1月に発表されたユーロモニターのレポート「世界の消費者、2016年の動向」に基づいて近年の都市部住民の消費行動についてみてきた。
今回は、その消費者たちへのアプローチ方法について考えていきたい。
レポートが挙げている、消費者の最新動向は以下の10点だ。
(1)矛盾する購買行動
(2)時間を買う
(3)高齢化(エイジングに挑戦する消費者たち)
(4)社会問題への関心
(5)不明瞭になる性差
(6)安全で自然な食べもの(また、食品廃棄をなくすようなグリーンな行動)
(7)精神的健全さ(心の問題)
(8)デジタル機器依存症
(9)安全を守るための消費
(10)旺盛な消費をみせる独身者
テロ、不安定な経済、地球温暖化、自然災害、また多くの国には戦争もある。先行き不安な世界において、モノを持っていることは重荷となるだけだ。11年3月11日の東日本大震災では、直接の被害者のみならず、ニュースなどを通じて間接経験した人たちも家や家具、自動車、その他の物が一瞬で破壊されるのを目のあたりにした。また、戦火に見舞われた地域の住民は、命からがら身一つで逃げる。
シェアリング経済が登場した背景がここにある。だからといって、先行き不安ななかで誰もが物欲をなくすとは限らない。同じ経験をしても、異なる反応はある。
たとえば、01年9月11日の米同時多発テロを間接体験した米国人のなかには、人生の無常さを実感した結果として、好きなように生きようと決めた人たちもいる。「ダイエットしてウエストが細くなったとして、それが何になるのか。どうせ死から逃れられないのなら、好きなものを食べたほうがいいじゃないか」といった具合に達観した人たちもいた。そのため、脂肪分の多いアイスクリームが売れ、ステーキや大きなハンバーガーが人気を呼ぶようになった。
同じことを経験しても、反応は人それぞれだ。
ここで、ユーロモニター(1)の「矛盾する購買行動」の出番となる。今の消費者の購買行動は矛盾しているように見える。将来への不安が漂うなか、所得レベルに関係なく誰もが「節約しなければいけない」と思っている。一方で、「自分が気に入ったものは買いたい」とも思う。こういった心の葛藤を解消して、かつ自分の行動を正当化するために、「価格が安かったから買うことにしたのだ。お買い得だったのだ」と自分自身に言いきかせるのだ。しかし、そういった言い訳を真に受けて「今の消費者は安ければ買う」と考えるのは早とちりだ。どんなに低価格でも、欲しくないものは買わない。