筆者の私見ではあるが、クリスピーとミスドのドーナツを食べ比べてみて、おいしさにおいて価格差以上の優位性があるとはいえなかった。確かにクリスピーのドーナツはおいしかったが、同程度の味のドーナツをミスドで、より低価格に食べることができるというのが率直な感想だ。
ドーナツそのものへの消費者の敬遠志向も逆風となっている。ドーナツの調理で使用する植物性ショートニングにより発生するトランス脂肪酸の摂取が健康に悪影響を及ぼすという認識が昨今広まっている。クリスピーのドーナツも例外ではなく、「低トランス脂肪酸」とうたうことすらできない。また、ドーナツは一般的に高カロリーなため、健康意識が高まっている近年では悪者扱いされやすい。
コンビニエンスストア各社によるドーナツ市場への参入の影響も無視できない。ここ数年、セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンでドーナツの販売を開始した。主要価格帯は100~120円程度と、クリスピーやミスドと比べて低価格で販売している。ただし、クリスピーとコンビニ各社のドーナツを食べ比べてみると、味においてはクリスピーに軍配が上がる。
しかしながら、コンビニ各社のドーナツ市場への参入の影響は限定的と思われる。クリスピーはあくまで店舗での販売であり、基本的には店舗内でドーナツを食べてもらうという外食産業だ。コンビニ各社のドーナツは自宅等への持ち帰り用としての販売であり、外食産業とは一線を画す。
つまり、クリスピーはあくまで外食産業として、ドーナツの販売を考えていかなければならないと考えられ、コンビニよりもむしろミスドやほかのファストフード店と競合するといえる。
一方で、クリスピーのドーナツは土産用としての需要が高い。「ダズンボックス」と呼ばれる専用の箱に複数のドーナツを詰めた商品が人気だ。例えば、好きなドーナツを12個選んで1箱に詰める「アソート ダズン」(2000円)は、オーソドックスなドーナツに加えて動物をモチーフにしたドーナツなどが選べ、贈答用としては特別感を醸しだしている。このような商品戦略は他社には見られず、差別化されているといえる。
クリスピーの事業縮小は、不採算店舗の撤退と同時に、テイクアウト需要を強化させるために行っていると筆者はみている。都内の数店舗を観察したところ、店内で飲食している客は多くなく、店舗効率が良いとはいえない。効率の悪い店舗を閉店し、規模の小さい店舗を新たに出店し、テイクアウト需要を掘り起こしていくという戦略を立てているのではないか。また、贈答用として百貨店やスーパーマーケットなどでの販売を進めていくことも考えられる。
いずれにしても、ただ単に店舗を閉鎖させていくだけではなく、新たな展開をするはずで、今後の経営戦略に注目が集まりそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。