ちょい飲み、異例の長いブームの裏にスゴい秘密…「安い印象」与えるメニューの仕掛け
2年連続でヒット商品に選ばれた「ちょい飲み」
「ちょい飲み」がブームといわれるが、これは単なる一過性のブームではない。実は有力ヒット商品ランキングに、2年連続で選ばれるという非常に希少なヒット商品なのだ。情報誌「日経トレンディ」(日経BP社)が発表した2015年の「ヒット商品ベスト30」では「アップルウォッチ」「ペッパー」「おにぎらず」などを上回り、7位にランクインした。さらにその前年の14年にも「日経MJ ヒット商品番付2014」で、「NISA」「ふるさと納税」「富岡製糸場」などと並び「前頭」にランキングされていたのだ。これだけヒットが長く続く事例は珍しい。
ちょい飲みとは、ファストフードやファミリーレストランなどで、軽いつまみを食べながら飲むものだ。吉野家が先陣を切って15年に「吉呑み」という名称で始めた。その後、約1年の間に多くの外食企業に導入されている。
この数年、外食産業は長く続く不況で厳しい状況に置かれている。ある大手外食チェーン幹部によれば「ちょい飲みサービスは、売上アップにつながる起死回生の起爆剤」だそうだ。
企業の立場で見ると、このサービスは非常にメリットが多い。まず夜間や午後など、客数が減るアイドルタイムに客を呼ぶことができる。また、原価率の低いアルコールを提供することで、客単価を上げて利益を出せる。さらに店舗の多くは客席が長居する構造になっていないため、回転数を上げることも可能で、基本メニューを活用することができるため大きな設備投資も必要ない。
こうした企業側の事情で参入が増えて話題になることも、ヒットの要因となる。しかし、お金を出すのは顧客だ。消費者が、ちょい飲みしたいと思わなければブームになることはあり得ない。
確かにちょい飲みにはさまざまな魅力がある。まずは安さだ。低価格の基本メニューに加えて、他のつまみや飲料も安く抑えられている。また気軽に行ける点も魅力だ。過去に食事したことのあるチェーン店なら店内の雰囲気もわかり、ひとりでも入りやすい。もともと食事の店だから味も一定レベル以上だ。
しかし、これらが理由のすべてだろうか。2年連続でヒット認定されるほどの商品ならば、思わず消費者がちょい飲みしてしまうような、心理的な要因も働いているのではないか。
「せんべろ」より「ちょい飲み」を選ぶ「リスク回避」の心理
今回はちょい飲みしてしまう心理を、行動経済学の視点で読み解いてみたい。行動経済学は、人間が常に合理的だとする典型的な経済学と違い、リアルな人間の行動や判断を実験や観察で究明する学問だ。