ちょい飲み、異例の長いブームの裏にスゴい秘密…「安い印象」与えるメニューの仕掛け
ちょい飲み心理に関して第一に考えられるのは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏らが唱えた「損失回避」の影響である。これは何かを得るよりも、失うことへの拒否感が強いために起きる心の働きだ。この影響を受けると人間は損得に関して不合理な反応をする。
例えば、ある実験では同じ金額に対して、これを失う悲しみは得る喜びの2倍以上という結果が出た。他の実験からも人間は損失を、または損失につながる「リスク」を必要以上に避けることが証明されている。
よく考えれば、単に安く酒を飲むならば、居酒屋が選ばれても不思議はない。最近は「せんべろ」(「千円でベロベロ」の略語)と呼ばれる低価格の居酒屋も人気だ。場合によっては、こちらのほうが意外なメニューがあったり、安く上がる可能性もある。それにもかかわらずファストフードやファミレスを選ぶ顧客が多かったため、ちょい飲みはヒット商品となった。
この心理を読む大前提は、いまだ続く不況下での消費者の懐事情の厳しさだ。飲みに行くなら、確実に安く済ませられる「確信」が欲しい。居酒屋やダイニングバーでは、お通しが高かったり、一品の量が少なく割高だったり、思った以上に高くつくことがある。せんべろの店だろうと、通い続けて全メニューを制覇しない限り失敗はありうる。
実は、企業がつくるメニューには、人間心理をふまえた買わせる工夫が凝らされている。例えば、全メニューのなかで極端に安いつまみが一つあるだけで、客は全体的に安い印象を受ける。これは行動経済学で「ハロー効果」と呼ばれるものだ。人間が何かを評価するとき、目立ちやすい特徴に引きずられて他の評価が歪められるのだ。
一方、ファストフードやファミレスのチェーン店のメニューは平凡だがわかりやすい。馴染みのメニューも多く、会計は明朗で不安はない。ちょい飲みする理由として、しばしば「安さ」があげられるが、重要なのは「金額が低い」だけでなく「高くつく不安がない」ことなのだ。
リスク研究の第一人者ポール・スロヴィック氏は、リスクを高める要因の一つに「未知性因子」をあげている。人間は昔からあるもの、馴染みのあるものに対してはリスクを感じにくいのだ。
チェーン展開するファストフードやファミレスは、街でよく見かける。多くの人は、何かしら食べたこともあるだろう。これらの経験もちょい飲み=低リスクの印象につながる。ちょい飲みが選ばれる他の理由である「気軽さ」「一定の味レベル」も、そのチェーン店を知っていたり入ったことがあるからこそ感じることだ。「未知」でない安心感が「リスク回避」につながり、それがちょい飲みのヒットにつながっているのだ。