アマゾンジャパン(以下、アマゾン)は昨秋から今春にかけて、中小零細出版社を対象に「和書ストア売り伸ばしセミナー」「和書ストア販売促進セミナー」などとうたった催しを開催している。このセミナーの実態は、アマゾンの直取引システム「e託販売サービス」に出版社を勧誘するものであることは、当サイトでもこれまで伝えてきた通りだ。しかも、アマゾンは昨今の出版取次の破綻を追い風に、こうしたセミナーを活用して出版社との直取引契約を増やしてもいる。
では、なぜ出版社はアマゾンの勧誘に乗ってしまうのか。その実態を探るために、セミナーに出席した複数の出版社の人たちに話を聞いた。彼らの証言から、巧みな言葉を使って版元を勧誘するセミナーの実態が明らかになった。以下、詳細にメモをとっていた3氏の話を軸にし、このセミナーの実態を暴露する。
「三方よし」の心得
A氏 まず、セミナーのはじめに村井良二バイスプレジデントが挨拶しました。彼は、これまで書籍部門の責任者だった渡部一文前バイスプレジデントの後任者です。村井氏は「アマゾンが伝えたいことが、なかなかストレートに伝わらないので、直接話す機会を設けた」と出版社向けのセミナーを開催した理由を説明しました。要は、「アマゾンが日本の出版界を理解せずに、黒船や大砲で威嚇して地位を高めてきた」と思っている出版社の誤解を解きたいのだそうです。
B氏 そこで、売り手よし、買い手よし、世間よし、という近江商人の「三方よし」の心得を引用するのです。アマゾンという外資企業を日本人に理解してもらうために、考えたのでしょう。この心得をもじって、彼らは「著者よし」「出版社よし」「読者よし」の「三方よし」が「我々の基本哲学」であり、この三方がうまくまとまることでアマゾンもうまくいくのだと。
今回のセミナーでは、その一方である出版社の「自社に在庫があるのに、なぜアマゾンで在庫切れになっているのか?」「急な需要で在庫が切れた。どうしたらすぐ在庫ありになるのか?」という悩みを解消するというのです。つまり、アマゾンでの在庫切れを少なくするための方法を伝授するのがセミナーの要旨でした。