消費行動がイデオロギーと関連するのはなぜか
それにしても、イデオロギーという政治的特性が、政治とは無縁の製品やブランドの好みと関係するのはなぜでしょうか。そのブランドが持つ一般的な個性ないし主張が、特定のイデオロギーを持つ人々から共感されやすいというのがひとつの仮説です。政治的に保守的な人々は政治以外の領域でも歴史や権威を重んじ、政治的にリベラルな人々は政治以外の領域でも自由や革新性を求めるということです。
このことを考えるうえで、心理学者ジョナサン・ハイトの主張が参考になります【註4】。ハイトによれば、保守=右派は情動に基づく無意識的な意思決定を尊重し、リベラル=左派は意識され論理的な意思決定を尊重します。だから保守派は所属集団(家族から国家まで)への情動的絆を重視し、リベラル派は理性で社会を制御できると信じがちなわけですが、こうした差は政治以外の領域にも表れるというわけです。
ハイトは、イデオロギーの差に遺伝的基盤があることを示唆しています。つまり、それは人間心理の奥深いところにあり、消費者を深く理解するうえでも重要な変数となります。ふだんのマーケティングリサーチでイデオロギーについて質問するわけにはいきませんが、イデオロギーと密接に関連しそうな質問を用意しておくとよいかもしれません。
(文=水野誠/明治大学商学部教授)
【註1】平林紀子『マーケティング・デモクラシー』春風社、2014年
【註2】 この調査は科学研究費・基盤研究(B)「社会規範・政策選好・世論の形成メカニズムに関するパネル調査」(研究代表者:畑農鋭矢明治大学教授)の一環として実施された。記して感謝したい。この研究の一部は第19回進化経済学会大会で発表された。予稿を以下からダウンロードできる:
水野誠、桑島由芙「有権者と消費者というヤヌスの鏡~イデオロギーや価値観が果たす役割~」
【註3】ここでオッズ比とは、特定の選択肢(たとえばIE)を選ぶ確率が他の選択肢(IE以外のブラウザ)を選ぶ確率の何倍になるか(これをオッズという)が、本人のイデオロギーがリベラル寄りから保守寄りへ1段階動くことで何倍増えるかを表す数値である(つまり倍率の倍率である)。こうした確率はイデオロギー以外の要因の影響も受けるため、性別と年代の効果を統制する形で計算された。そのため図表2の場合は多項ロジスティック回帰、図表3の場合は2項ロジスティック回帰と呼ばれる統計手法が用いられた。
【註4】ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』紀伊國屋書店、2014年