筆者が歯科医師会に取材して得たデータでは、現代人の食事1回当たりの噛む回数は、卑弥呼の時代(弥生時代)の約4000回に比べて6分の1の約620回だという。ちなみに江戸時代は約1470回、戦前は1420回だった。麦入りごはん、たくあん、煮干しなどを食べていた戦前から、現在はカレーやラーメン、ハンバーグなどやわらかい食べ物が中心で、噛む回数が半分以下となったのだ。
とはいえ、戦前の食事を毎日行うことは現実的ではない。できるだけ噛むことを意識して食事を行い、器具などでケアするのが一般的だ。その消費者意識は高まっている。
「今までハミガキ剤とハブラシしか使わなかった人が、デンタルフロスやデンタルリンスを買うケースも増え、意識の高い人は高機能のハミガキ剤を選ぶ傾向にもあります」(同)
全国に歯科医院は7万院以上あり、コンビニエンスストアの5万店超よりも多い過当競争となっている。逆にいえば、良質な歯科医院を探す好機でもある。山形県酒田市の日吉歯科診療所のように「虫歯のない子どもを育てる、予防歯科」を提唱して成果を挙げている医院もある。
「オーラルケア先進国のスウェーデンでは、年に1回以上の予防歯科検診が定着しています。70歳の歯の残存本数は、日本人が16.5本に対して、スウェーデン人は21.0本という調査結果もあります。これからも定期的な予防歯科検診の大切さも訴求していきます」(同)
ビジネス誌「プレジデント」(プレジデント社/2012年11月12日号)の特集記事『リタイア前にやるべきだった 後悔トップ20』で、シニア1000人の調査を行ったところ、70~74歳で最も多かったのが「歯の定期検診を受ければよかった」だったという。「歯を欠損すると食事の楽しみが半減し、入れ歯は健康保険が使えないので家計を直撃」するとの事実も紹介していた。
現役世代にとって、歯は何かトラブルが起きて初めて対応する人が多いのが実情だ。筆者自身も、歯のトラブル→歯科治療を繰り返している。気の置けない仲間との飲み会で楽しく食事するためにも、オーラルケアに真剣に取り組んだほうがいいかもしれない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)