「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
その昔、「芸能人は歯が命」というキャッチコピーのテレビCMが人気を集めたが、ビジネスパーソンにとっても歯は生命線だ。虫歯などで歯の調子が悪いと、仕事のモチベーションも上がらない。エチケット意識も高まり、昼食後に職場の洗面所で歯を磨く人も多くなった。
6月4日から10日までは「歯と口の健康週間」だ。そこで今回は、ハミガキ剤などのオーラルケア(口腔の衛生・手入れ)分野の事業について紹介したい。ハミガキ剤を販売して120年たつライオンを通して、歯磨き事情と訴求手法を探ってみたい。
「予防歯科」で売り上げ増
人口減や消費不況の影響を受け市場が縮小している分野は多いが、オーラルケア市場は絶好調だ。マーケティングリサーチ会社インテージのSRI(全国小売店パネル調査)最新データによると、市場規模は全体で約2261億円(前年比104%増)に上る。主な内訳はハミガキ剤(848億円)、ハブラシ(540億円)、洗口剤・液体ハミガキ(294億円)、義歯用品(264億円)、デンタル用品(163億円)となっている。
最も市場が大きいハミガキ剤は、用途別に多くのブランドがある。たとえば、「虫歯予防」では花王の「クリアクリーン」やライオンの「クリニカ」「キシリデントライオン」などがあり、「歯周病予防」にはサンスターの「G・U・M(ガム)」やライオンの「システマ」などが強い。また「白い歯訴求」では、テレビCMで一世を風靡したサンギの「アパガード」やサンスターの「Ora2(オーラツー)」が人気だ。大半のハミガキ剤が「口臭ケア」も同時に訴求している。
このうち首位ブランドは「G・U・M」で、以下「クリニカ」「システマ」「クリアクリーン」が争うという市場だ。ブランドが林立するなかで、1981年から販売しているクリニカはどのような取り組みをしているのか、ライオンの担当者に話を聞いた。
「2014年から『予防歯科』をコンセプトに消費者訴求をしています。実は、日本人は70歳になるまでに平均10本以上の歯が抜けており、それを防ぎたいのです。クリニカが提唱する予防歯科とは、虫歯にならないようにすることを重要視する考え方です。歯医者さんでの定期的な検診による『プロケア』と、毎日自分で磨く『セルフケア』の両方を継続する大切さを、商品+情報で伝えています」(ライオン・オーラルケア事業部ブランドマネジャー、横手弘宣氏)