つまりユニは、業務を請け負いながら、実際には「派遣」=「人出し」しかしておらず、DNPミクロに至っては契約書上”間”に入っているだけ。つまりDNPファインは、2社を介在させた「二重の偽装請負」を行っており、さいたま労働局から是正指導を受けていたのだ。
DNP・北島一族「冷たい経営」の帰結
ではなぜ、DNPファインは、労働者を直接自社で雇わないで、間に2つも会社をかませているのか?
ユニは、DNPファインのような企業がユニに業務委託するメリットとして「業務量変動に応じた調整が容易にできる」「従業員数が増えず、労務コストを削減できる」などを挙げている(同社HPより)。もちろん「調整が容易」というのは、Nさんの例のように、景気の波に合わせて人を減らしたいとき、簡単に切れるという意味だ。
上記判決によれば、Nさんの基本給は月16万円だった。その額は「同じラインで同じ仕事をしているDNPファイン正社員の半額くらい」(同社関係者)とされるが、そんな「労務コスト削減」=「賃金差別」も、「別の会社の人だから」とベールに覆われてしまう。人を安く使い、いらなくなったら自分の手を汚さずに切って捨てる――。そのためのカラクリこそ、DNPファインの二重偽装請負の真相だったのだ。
印刷会社の組合が加盟する全印総連の大原つくる副委員長は、「今回の判決は、北島一族が支配する大日本印刷(DNP)の『冷たい経営』を問うものです」と指摘するが、DNPは今回の判決について、「ユニに対するものなので、コメントする立場にない」と言うばかり。しかし、DNPファインにはDNPの営業部が受注した仕事が回され、DNPファイン工場内にはDNP社員が常駐し、あれこれ指図しているのが実態。「DNPファインは、まさにDNPの一事業部」(DNPファイン関係者)との声も聞かれる。
以上のように、不当な解雇や労働コスト圧縮、二重偽装請負によるグループ企業への不当売り上げ計上などを行い、組織的にグループ全体の利益をかさ上げしてきたDNPも、12年3月期は3年ぶりに赤字に転落する。電機メーカーの液晶テレビ事業縮小に伴い、液晶カラーフィルターをつくる生産設備の減損処理で、特別損失を計上したことが響いたという。
そのツケは、再び弱い立場の労働者に回されるのか? Nさんと同じ工場で働き、同時に解雇されたHさんは「トップが億単位の報酬を得ながら、傘下企業では平気でクビを切るのは腹立たしい」と怒る。同社に現場の声が届く日は来るのだろうか?
(文=北 健一/ジャーナリスト)