3月決算企業の外国人役員の高額報酬が相次いで明らかになった。
ソフトバンクグループ
株主総会の前日に電撃退任したソフトバンクグループ(G)のニケシュ・アローラ前副社長の2016年3月期の役員報酬は、15年6月に取締役に就く前の分を含めると80億4200万円。15年3月期は契約金を含めて165億5600万円。2年間で役員報酬は245億9800億円に上るが、これに見合う働きをしたのだろうか。
孫正義社長は常識を超える発想と行動力が持ち味だが、アローラ氏を買い被りすぎたようだ。株主からは「食い逃げだ」と怒りの声が上がった。
ソフトバンクGの海外投資戦略に携わってきたロナルド・フィッシャー取締役も20億9600万円で、前の期から3億500万円増えた。孫氏は1億3000万円(前年は1億3100万円)だった。アローラ氏に代わって副社長に戻った宮内謙氏は3億1700万円(同1億5800万円)である。
ソフトバンクGが6月22日に提出した有価証券報告書によると、アローラ氏は基本報酬が9億5500万円、賞与が36億3600万円、株式報酬が18億8700万円で計64億7800万円だった。ソフトバンクG本体から9900万円、米子会社から63億5200万円、米スプリントから2700万円を受け取った。15年6月に取締役に就く前の分を含めて80億円強なのだ。契約金などがないため15年3月期に比べると半減したが、それでも破格な数字である。歴代の役員報酬で最高額である。
日産自動車
日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)は10億7100万円と前の期から3600万円増えた。「年間、最大で100日しか日本にいない」(日産の元役員)ゴーン氏は、欧米の自動車メーカーのトップより日給ベースだと高い報酬を得ているといった辛辣な指摘もある。
仏ルノーの4月末の株主総会で、ゴーンCEOに15年の報酬として725万ユーロ(8億8000万円)を支払う議案に54%の株主が反対した。総会での議決に拘束力がないことからルノーは総会後に予定通り支払いを決めた。
このように、ゴーン氏の高額報酬はフランスでは批判にさらされている。フランス政府から「高過ぎる。減額を」と要請されたが、これを無視した。そこでルノーの大株主であるフランス政府は「企業側(ルノー)が対応しないなら、立法措置をとる」と表明。国民会議(下院)で左派の議員が株主総会の決定に拘束力を持たせるよう法律の改正に乗り出した。
ゴーン氏が日産と仏ルノーから受け取った報酬額は19億5100万円。これはトヨタ自動車の取締役18名の報酬の総額19億1600万円を上回る。ゴーン氏はトヨタの全役員を上回る“業績”を上げたということなのだろうか。ちなみに、西川廣人取締役CCO(最高顧客責任者)は2億円(同1億5500万円)に増額されたが、それでもゴーン氏の2割以下だ。
トヨタ自動車
トヨタの豊田章男社長の役員報酬は3億5100万円(同3億5200万円)と横ばい。副社長ディディエ・ルロワ氏の報酬額は6億9600万円で豊田社長の2倍近い。フランス出身のルロワ氏は昨年6月、トヨタの歴史で初めて外国人副社長に就いた。仏ルノーを経て1998年に現地法人のトヨタモーターヨーロッパに入社。豊田社長が進めるグローバル化の一環として、本社の副社長に起用された。外国人役員に高額な報酬を出す流れはトヨタでも同じだ。
日立製作所
日立製作所は米州総代表、ジョン・ドメ執行役常務が9億円。ビッグデータ分析の米ペンタホ買収などの功績を評価したほか、米国企業の役員の報酬の水準を考慮して決めたという。東原敏昭社長の役員報酬は1億3600万円。ドメ氏の報酬は社長の6.6倍だ。日立レールヨーロッパ会長兼CEOのアリステア・ドーマー氏は1億6100万円で中西宏明会長と同額だ。
ソニー
長い赤字のトンネルから抜け出したソニーの平井一夫社長は7億9400万円。前年(3億2600万円)の2.4倍だ。前期にはゼロだった業績連動報酬2億9400万円が上乗せされた。ソニーの復活のために辣腕を振るう吉田憲一郎副社長は3億600万円(同1億4400万円)である。
総合商事4社
巨額赤字に沈んだ総合商社2強のトップの報酬額には違和感がある。三井物産は資源安ショックの直撃を受け、上場来初の834億円の最終赤字に転落する元凶をつくった飯島彰己会長が1億3700万円。前年(2億1300万円)より減らしたとはいえ、堂々、“1億円プレーヤー”に名を連ねている。安永竜夫社長は1億2600万円。これで、けじめをつけたといえるのだろうか。
16年3月期決算で1493億円の赤字となり、初めて赤字に転落した三菱商事では、業績連動部分の賞与は全役員に支給しなかった。それでも、小島順彦会長(現相談役)が1億9100万円(前年は2億2800万円)、小林健社長(現会長)は1億6900万円(同2億6600万円)だった。株主から「役員の経営責任の取り方」について説明を求める意見が出た。
住友商事の中村邦晴社長も、2年連続で資源安の影響を受けて大きな減損損失を計上したにもかかわらず1億1600万円を手にしている。
伊藤忠商事の岡藤正広社長は、商社業界で初めて利益でトップに立ったにもかかわらず、それでも結果的に減益だったため、2億1900万円(前年は2億5900万円)に4000万円減額して、けじめを示した。小林栄三会長も2億3400万円から1億9300万円へ減額査定だ。
武田薬品工業
もう1人の外国人の“大物”社長といわれている武田薬品工業のクリストフ・ウェバー氏の役員報酬は9億500万円だった。前期の5億7000万円を大きく上回った。武田薬品では、1億円以上の役員報酬の開示を始めた10年3月期以降でウェバー氏が最高となった。長谷川閑史会長は4億5000万円を受け取る。武田薬品は「報酬面での国際的な競争力を高めるとともに、好調な業績を反映した」と説明しているが、本当に業績は好調なのだろうか。
武田薬品が5月10日に発表した16年3月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が801億円の黒字(前期は1457億円の赤字)。16年3月期の売上高は前期比2%増の1兆8073億円だった。海外売上高比率は62%と2ポイント上昇した。国内の売上高は3%減。高血圧症治療薬「ブロプレス」や消化性潰瘍治療薬「タケブロン」が特許切れの影響で後発薬にシェアを奪われた。糖尿病治療薬「ネシーナ」も競争激化で振るわなかった。
17年3月期の売上高は16年3月期比5%減の1兆7200億円を見込む。純利益は10%増の880億円。13年3月期当時の純利益は1485億円あった。15年3月期に赤字転落し、回復途上にあるとはいえ、利益水準はかつてのおよそ半分。高収益会社のイメージは剥げ落ちてしまった。この業績で9億円も手にしていいのだろうか。
株主総会において、長谷川氏再任への賛成比率は79.26%で80%を下回った。ウェバー氏は85.77%だった。LIXILグループの社長をクビになった藤森義明氏が社外取締役に選任されたが、その際には93.77%の賛成を得ており、2トップの支持率は藤森氏以下となった。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスを退任した鈴木敏文前会長兼CEOの16年2月期の役員報酬はストックオプションを含めて2億8200万円。セブン&アイは退職慰労金制度を廃止しており、退職慰労金の支給はない。
セブン&アイの役員報酬の最高額は米国セブン-イレブン社長、ジョセフ・マイケル・デピント氏の21億8700万円で、鈴木氏の7.7倍だ。
外国人役員は日本人よりはるかに高額な報酬を得ている。報酬水準をライバル企業に合わせないと引き抜かれるからだという。それぞれの企業で事情はあるだろうが、外国人役員にとっては高額報酬を大盤振る舞いしてくれる日本の企業は天国のようだろう。
【16年3月期決算の上場企業の役員報酬総額ランキング】 ※東京商工リサーチ調べ
以下、順位.氏名(企業名)、報酬総額
1.ニケシュ・アローラ(ソフトバンクグループ)、64億7800万円
2.ロナルド・フィッシャー(ソフトバンクグループ)、20億9600万円
3.大西通義(アオイ電子)、11億6800万円
4.カルロス・ゴーン(日産自動車)、10億7100万円
5.岡田和生(ユニバーサルエンターテインメント)、9億4800万円
6.クリストフ・ウェバー(武田薬品工業)、9億500万円
7.ジョン・ドメ(日立製作所)、9億円
8.平井一夫(ソニー)、7億9400万円
9.三津原博(日本調剤)、7億3700万円
10.ロジャー・バーネット(シャクリー・グローバル・グループ)、7億3400万円
(文=編集部)