スズキ、ワンマン経営は変わらず
“もうひとりの修さん”であるスズキの鈴木修会長は、燃費データを違法に測定した問題の責任を取り「CEOを辞退する」と公表した。退任や辞任ではなく辞退なのだ。「トカゲの尻尾切り」で引責辞任する技術統括の本田治副社長は、プレスリリースによると「退任」となっている。
国土交通省は「経営陣が十分なチェックができていなかった」との調査結果を公表し、石井啓一・国交相は、スズキに再発防止策の進捗状況を3カ月ごとに報告するよう求めた。「経営責任の明確化」を求める国交省に対するクセ球の回答が「CEOの辞退」だったというわけだ。
広辞苑によると、辞退とは「へりくだって引き下がること。任命・勧誘などを断ること」とある。国交省から「一定のけじめ」を求められた鈴木修氏が、それを断った――。これが事の真相だろう。
「経営の第一線から退くのか」と記者会見で問われた鈴木修氏は「現役を退くのが退任だ」と述べ、「CEOは辞退するが、経営トップとしては現役だ。続投する」と宣言した。
「燃費不正は、私がCEO時代に起きた問題なので、逃げるのではなく会長を続けようと考えた」
代表権を持つ会長を続ける理由をこう強弁した。鈴木修氏のワンマン会社という体制は不変なのである。
昨年6月に長男の鈴木俊宏氏が社長に就任し、「経営戦略会議」を新設。組織上は集団指導体制と移行した。しかし、意思決定機関は「本部長会」のままであり、本部長会は鈴木修氏が仕切ってきた。
「昨年の社長交代の際も“チームスズキ”を目指すとしていたが(実行されていない)」という厳しい指摘に、俊宏氏は「(鈴木修会長が)37年間トップだった。1年でなかなか変わらないが、今回の件を受けて、(チームスズキを)加速しなければと思う」と述べた。
「トップダウンの中で、社員が意見を言いづらいこともあった」と俊宏氏は認めたが、「意見を言いづらかった」のは、実は俊宏氏自身ではなかったのか。社長がそうだったから、役員や社員は沈黙してしまうのだ。果たしてチームスズキは本当に機能するのだろうか。
経営トップとして不正問題を見抜けなかった責任が鈴木親子にはある。燃費不正問題が発覚した三菱自では、技術トップの中尾龍吾副社長に加え、相川哲郎社長も引責辞任した。
スズキの場合、今回の問題で退任するのは技術担当の本田氏だけだ。創業家一族の鈴木親子は守られた。6月29日の取締役会で鈴木修氏が16年間続けたCEOを、俊宏氏が引き継ぐことが決まった。
1978年からトップに君臨し続けたカリスマ会長の影響力は強烈だ。スズキは鈴木修氏の会社であり、効率を最優先し、トップダウンで何事も同氏が決めてきた。これが不正の温床となったスズキの企業風土なのだ。スズキ躍進の原動力となった経営手法の限界が、燃費不正で露呈したという事実に鈴木修氏は気付いていない。気付かないフリをしているのかもしれない。
カリスマ経営者と呼ばれた鈴木修氏が、進退に言及する時期にさしかかっている。「ひとまず、トヨタ自動車から技術担当の役員を派遣してもらったらどうだろうか」(前出・ライバルメーカーのトップ)とのアドバイスもある。
(文=編集部)