なぜ、キツい仕事後にチョコケーキを選ぶのか?私たちを「快楽的消費」に走らせる正体
快楽的消費は実用的消費の近くに提示しない方が選ばれやすい
快楽的消費は、実用的消費を意識しない状況で選ばれやすくなることが実証されています。オカダは、1、2種類のデザートを提供するレストランで、ベイリーズのアイリッシュクリーム、クッキー、チョコレートチップがブレンドされた高カロリーのチーズケーキ(快楽的消費)と低脂肪クリームチーズと卵白でつくられたヘルシーなチーズケーキ(実用的消費)を用いた実験を行いました【註8】。デザートが1種類のときには高カロリーのチーズケーキを、2種類のときにはヘルシーなチーズケーキと一緒に顧客に見せました。
その結果、高カロリーのチーズケーキを選択した被験者の比率は、単独で提示したほうがヘルシーなチーズケーキと一緒に提示した場合よりも高くなりました。同様の結果は、レストランの商品券(快楽的消費)と食料雑貨店の商品券(実用的消費)を用いた実験でも確認しています。
快楽的消費は、他に選択肢がなければそれを理由に購買を正当化できますが、実用的消費との間で選択できる状況にあるときには正当化が難しくなり、選択しにくくなるのです。したがって、快楽的消費の対象となる商品を販売する場合には、同じ製品カテゴリーであっても実用的消費の対象となる商品と一緒に販売しないほうが売り上げを伸ばせる可能性が高くなるといえます。スポーツカーなどの贅沢品はミニバンや軽自動車などの実用的な車の側に展示せずに単独で展示し、消費経験から得られる快楽や興奮のみを期待してもらう状況を整えたほうがいいということになります。
快楽的消費は手放しにくい
快楽的消費は魅力的なので、実用的消費よりも手放したくない、失いたくないといった気持ちが強くなる傾向にあることが実証されています。
ダールとウェルテンブロックは実験を行い、被験者に、近くのミュージックショップで好きな音楽テープを選べる商品券(快楽的消費)と10パックのコンピュータ用ディスクの商品券(実用的消費)を見せ、報酬として2つとももらえると伝えてから無関係の作業をしてもらい、作業後に手続きに間違いがあったとしてどちらかを諦めてもらう状況(諦める状況)、あるいは作業後にどちらかを選んでもらう状況(獲得する状況)に割り当てました【註3】。その結果、報酬として音楽の商品券を選択した被験者の比率は、諦める状況のほうが獲得する状況よりも高くなりました。