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舘内端「クルマの危機と未来」

トヨタ、世界市場から締め出される危機発生…「生命線」新プリウスが想定外の販売延期

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表
トヨタ、世界市場から締め出される危機発生…「生命線」新プリウスが想定外の販売延期の画像1PHV車の現行モデルであるトヨタ・4代目プリウス(「Wikipedia」より/Turbo-myu-z)

新型プリウスPHVに失敗は許されない

 今秋に発売が予定されていたトヨタ自動車のプラグインハイブリッド車(PHV)、新型プリウスPHVが今冬に発売延期になった。トヨタの次世代車戦略は、出鼻をくじかれたようだ。

 発売延期の理由についてトヨタは、同社の基準に照らして品質を十分なものにするには、生産ペースを当初の予定よりも抑える必要があり、そのための処置だとしている。直接の理由は、車体軽量化のために採用した新素材のドアの生産が遅れているためだ(8月4日付朝日新聞より)。

 PHEVあるいはPHVと表記されるプラグインハイブリッド車は、しばらくの間は次世代車の本命と考えられている。二酸化炭素(CO2)削減の規制を強める欧州、米国そして中国は、ペナルティやインセンティブ(補助金)を用意してPHVの普及を後押しする。PHVの発売は、いまや自動車メーカーの義務である。それに応えるべく、トヨタはプリウスPHVを用意したのだが、問題を抱えたようだ。

PHVの導入を待ち構えるEU

 EUでは、2021年に企業平均燃費をリッター24.2キロメートルに強める。現行の19.3キロメートルから24%も強化することもあり、PHVのCO2排出量の計算方法を優遇までして、導入を促進する。それを受けて、ほとんどの自動車メーカーがPHVを取り揃える。BMWは全モデルにPHVを用意し、独メルセデスベンツは17年までに10車種のPHVを揃える。

 トヨタは14年のデータで、EUにおいてCO2排出量の少ない自動車メーカーの順位が第4位である(注1)。もっともCO2排出量が少なかったのは仏ルノー、続いて仏プジョー、仏シトロエンと続く。そのトヨタにしても21年の規制に応えるには、EVあるいはPHVの販売が必要に違いない。

プリウスなくしてトヨタの米国戦略なし

 一方、全CO2排出量のうちに占める自動車のそれの割合が30%以上の米国は(日本は同18%ほど/注2)、カリフォルニア州を中心に10州が排ガスゼロの自動車販売義務化を18年モデルから強化する予定である。いわゆる「ZEV規制」だ。義務販売台数は20年にはEV、PHV合計で50万台、24年には100万台近くに及ぶ。義務化された州では販売台数の5台に1台がEVかPHVになる。

 プリウスPHVの開発は、まさにこのZEV規制に向けたものだ。17年モデルまではHVが認められるが、18年モデルからは認められない。プリウスPHVなくして、トヨタの米国戦略はあり得ない。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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