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舘内端「クルマの危機と未来」

トヨタ、世界市場から締め出される危機発生…「生命線」新プリウスが想定外の販売延期

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表

 ZEV規制が10州に広がると、20年のトヨタのPHV販売義務台数は約2万5000台となる (注3)。義務台数を販売できないと1台あたり5000ドルの罰金を取られる。トヨタとしては、是が非でもプリウスPHVは売らなければならない。

 ちなみに、20年のトヨタのEVの販売義務台数は4万3000台ほどである。FCV(燃料電池車)で代替可能だが、現在で年間700台程度の生産台数を数年間で4万台以上に引き上げられるだろうか。また、FCVは家庭で水素を充填するわけにはいかない。4万3000台のFCVに対応できる水素スタンドの設備が必須である。EVの開発、販売には距離を置くトヨタだが、米国ではEVの販売は絶対なのだ。

中国では300万台のEVとPHV

 
 中国では1台あたり100万円近い補助金を用意してEV、PHVの販売台数を急ピッチで増やす。15年にはおよそ48万台だった累計販売台数を20年には200万台、30年には1500万台へと増やす計画だ。中国におけるEV、PHVの販売は必須である。もし販売できなければ、必ずやシェアを失うだろう。トヨタにとってプリウスPHVの中国での販売は、この地の生命線である。

 かたや日本では15年4月~6月のEV販売台数は対前年比マイナス20%である(注4)。このため、EVやPHEVに対する見方は冷ややかだが、上記のように欧米中では急速に増やさなければならない。これらの国々での販売に頼る日本の自動車産業にとって、EV、PHVの開発、販売は生命線である。それにもかかわらず、日産(リーフ)、三菱自動車工業(アウトランダーPHEV)を除く国内メーカーの開発の槌音は、さっぱり聞こえてこない。

 そこに救世主のように現れたのが、新型プリウスPHVであったが、販売が今冬に延期されるという。果たして新型プリウスPHVに、日本の自動車産業に活路は開けるのだろうか。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)

(注1)日本EVクラブ「EV入門塾」講演資料。5位はハイブリッド車を用意したレクサス、6位は三菱、7位が日産で、ホンダは22位と大きく出遅れている。
(注2)筆者「大阪府立大学」講演資料。世界の全CO2排出量のうち自動車のそれが占める割合は20%。米国のそれは同33%である。環境省・経産省資料
(注3)14年のトヨタの米国での販売台数は237万3771台であった(MARKLINES)。ZEV規制が実施される10州の自動車販売台数はこのおよそ30%。トヨタは10州でおよそ71万2000台販売すると考えられる。PHVの販売義務台数はこの3.5%、EVあるいはFCVの販売義務台数は6%で4万3000台ほど。
(注4)日本EVクラブ「EV・PHV東京―伊勢志摩キャラバン実施背景」(至経産省)講演資料

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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