実は財団関係者が韓国ロッテを訪問する前後に、チェ容疑者やアン容疑者から財団関係者に何度も電話があり、アン容疑者は議論の直後、「韓国ロッテとは話がうまく進んでいるのか」と進捗状況の確認をし、「VIP(朴大統領)の関心事業だからな」と念押ししたという。
その後、財団と韓国ロッテは数回の会合を経たのち、最終的には韓国ロッテの出資額は70億ウォンに決まった。5月初めには70億ウォンを韓国ロッテの系列5、6社に分けて、新韓銀行の財団の口座に送金した。最終的には、協議した金額の倍を支払ったようだ。
韓国ロッテグループが積極的に支援した理由についてハンギョレ新聞は、「当時、辛東彬(シン・ドンビン、韓国ロッテ会長、日本名:重光昭夫)、辛東主(シン・ドンジュ、日本ロッテHD元副会長、日本名:重光宏之)の2人の兄弟の間で経営権紛争が起こっているさなかで、検察による強制捜査が行われようとしていた時期と重なっていたように見える」と指摘している。
不可解な資金返還
しかし70億ウォンは5月末、財団に入金されてから10日あまりで韓国ロッテ側に返還されている。財団は、五大拠点体育人材育成事業に必要な敷地の購入ができなくなってしまったことから返金したと説明しているというが、同新聞では「検察の捜査が韓国ロッテに不利に行われた点が、大きな影響を及ぼしたものとみられている」と報じている。
ソウル中央地検は財団が返金した10日後の6月10日、捜査員240名を動員して大々的な強制捜査を行った。同紙は財団関係者の話として、チェ容疑者の指示があったことも明らかにしている。
こうした事件に関する地元報道に対して、日本ロッテHDは「韓国検察捜査にかかわることなので、コメントは差し控えさせていただきます」と答えている。韓国ロッテに詳しい関係筋がいう。
「韓国内では検察の捜査が進み、韓国ロッテが弱みにつけ込まれたという報道や、逆に検察の捜査をなんとか避けたい韓国ロッテ側が政治権力者であるチェ容疑者側を利用しようとしたという見方も出ています。また、今年6月末にロッテ免税店ワールドタワーが閉店しましたが、政府の新規免税店特許の追加が検討されていたので、12月に行われる審査での特許取得に向けたものではないかという見方もあります」
真相はまだ闇の中だが、チェ容疑者やアン容疑者の逮捕により、解明されていくに違いない。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)