しかし、大槻氏は高値売り抜けを狙うスティールと対立。スティールは11年2月、大槻社長を解任。創業者の根本信男会長が社長を兼任した。根本氏はただちに、社名を元のアデランスに戻した。スティールは、いったんクビにした創業者に頼らざるを得なくなった。
スティールは14年12月、アデランス株を売却して撤退。乗っ取り騒動を経て、元の経営体制に戻った。
女性用のファッションかつらが大人気
国内のかつら市場は、アデランスとアートネイチャーの2強体制が長く続いたが、いまや群雄割拠の状態だ。
矢野経済研究所によると15年度のヘアケア(毛髪、植毛、発毛・育毛、ヘアケア剤)の市場規模は4383億円。なかでも、発毛・育毛が2.8%増の672億円と堅調だ。アンチエイジングに対する関心が高まり、ファッション感覚でウィッグを付ける女性が増えてきた。
ウィッグとは、ショートヘアの女性がロングにしたりする時に、髪型を変える目的で一時的に付ける洋風かつらをいう。いろいろな髪型が楽しめるおしゃれなアイテムである。
女性をターゲットにしたウィッグ市場に小林製薬など異業種が参入。通販会社も独自のウィッグを売り始めた。人気を集めているのがユキ(愛知県蒲郡市)の低価格帯のかつらだ。
女性用かつらは、百貨店で行う展示会を主要な販売ツールに据えてきた。ユキはアデランスなど2強が展示会を行う百貨店の隣接施設で似たような展示会を開き、ライバルの半額でかつらを販売して顧客を奪っていった。
アデランスは数十万円以上するオーダーメイド商品がドル箱だった。だが、16年3~8月期の女性のオーダーメイド品の新規顧客の売り上げは前年同期比27%減となった。女性用レディメイド商品の百貨店(直営店)の売り上げは7%落ちた。
低価格のかつらに侵食され窮地に陥った。非上場にしてビジネスモデルを転換する。インターネットなどへの広告掲載を積極的に増やし、販売の基盤を再構築する。
北米やアジアの海外市場に期待をかけている。米国は薄毛人口が8000万人とされる巨大なマーケットだが、日本のようにかつらを着用する文化はない。特にアデランスが得意とする高価格帯のオーダーメイドかつらは競合相手が少ない。
国内は成長の伸びしろが小さい。海外売り上げは国内と肩を並べるところまできた。今後、アデランスは海外事業で成長戦略を描くことになる。
(文=編集部)