武田と日立、なぜ容赦なき事業売却を加速?買収より「ノンコア事業」売却を優先すべき
M&A(合併・買収)助言のレコフによると、日本企業による海外M&Aは4~9月に296件と前年同期比で5%増え、年度上期としては過去最高を記録しています。また、金額ベースでも19%増の約5兆4000億円と2008年以来8年ぶりの高い水準となっています。ですから、日本企業にとって、もはやM&Aは経営戦略の柱のひとつとして確立されたといってもよいでしょう。
しかし、8月の本連載記事『なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法』で述べたように、高値づかみやPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A成立後の企業統合プロセス)の難しさなどが原因となり、買い手がM&Aを通じて企業価値を創造することは簡単なことではありません。のれんの減損が散見されることがその証といえます。
そもそもM&Aは買い手にとって不利なゲームなのです。しかし、これを逆手に取れば、売り手にとっては有利なゲームだといえます。買い手は企業価値に買収プレミアムを上乗せした金額を支払うことが必要になりますし、またオークションにより複数の企業を競わせれば買収プレミアムはさらに上昇するはずです。ですから、買い手には「勝者の呪い」であっても、売り手には企業価値を大幅に上回る資金を手にする絶好のチャンスなのです。要するに、買い手よりも売り手になったほうが有利なのです。
選択と集中を進める日本の大企業
実は、日本企業も売り手として、子会社や事業の売却を推進し始めています。これまで事業売却は経営危機に陥って初めて実施されることが多かったのですが、現在は優良企業が率先的に実施するようになっているのが最近の傾向です。
たとえば、武田薬品工業がその代表例です。同社のクリストフ・ウェバー社長は、トップ就任後、同社の重点領域を「がん」「消化器」、そして「中枢神経」の3つに定め、経営資源を集中する方針を示しています。そこで、3つの領域に該当しない非中核事業の切り離しを積極的に進めています。
まず15年12月に、海外で展開している呼吸器薬事業を英製薬大手のアストラゼネカに5億7500万ドル(約700億円)で売却しました。次に、16年4月には、イスラエルの後発薬世界最大手テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズに約30品目の特許切れ薬を実質的に売却しています。そして、同年8月には同社が約7割保有する創薬研究用試薬で国内首位の和光純薬工業の株式を売却するための一次入札を実施しました。