住友化学は「エチレンの原料には世界で最も安い天然ガスのエタンを用いるので、ナフサ(粗製ガソリン)を使う日本の石化製品と比べると原料コストは25〜30分の1。一方、年産能力がエチレン130万t、プロピレン90万t。このコスト競争力と世界最大級のスケールメリットにより、収益力の高い石化事業を展開するシナリオ」(業界関係者)を描いていた。
しかし、幕を開けると、舞台はシナリオと違った展開になった。
まず、サウジ側との交渉で、折半出資から37.5%へと出資比率引き下げを呑まされ、持ち分法投資利益としてしか決算に計上できなくなった。建設費も当初計画の倍以上に高騰した。
やっと操業にこぎ付けても設備トラブルが続き、安定操業ができなかった。その他「想定外」の事態続出で、業績は赤字続き。12年3月期に、やっと5億円強の持ち分法投資利益を計上見込みという状況だ。
十倉雅和社長は今年1月のメディア取材で「操業開始が計画より遅れた上、精製・石化マージン(原料価格と製品価格の差)の悪化、設備トラブルなどに見舞われた。現在は操業が安定し、マージンもこれから好転する。新中計では必ず想定利益を確保できる」と、ラービグ計画に自信を示している。
これに対して、証券アナリストは「想定外の事態が次々と起こるのが現在の海外事業。ラービグ計画は不安定要素が多いので、シナリオをゼロから書き直すのが賢明」と指摘している。
現中計では営業利益1900億円、経常利益2200億円を掲げていたが、いずれも結果は大外れ。それにも懲りず同社は新中計の重要課題に「強固な財務基盤の構築」と「グローバル経営の深化」の2つを掲げ、冒頭の意欲的な目標を設定している。
経済ジャーナリストは「財務体質改善と海外事業拡大が相反するのは経営の常識」と、次のように指摘する。
「海外事業拡大は投資が先行し、投資回収には早くても5年はかかる。その間には当然『想定外』の事態が起こり、最悪の場合は撤退もあり得る。そんな中で、どうして財務体質改善ができるのか。論理矛盾と言うほかない」
これに対して、十倉社長の側近は「12年3月期に52%だった海外売上高比率を、新中計期間中に60%近くまで引き上げる。そうして稼いだ利益を有利子負債9000億円程度までの圧縮に振り向ける。これが十倉の言う『強固な財務基盤の構築』の意味。したがって海外事業拡大と財務体質改善は論理矛盾ではない」と反論する。
果たして、どちらの言い分が正しいのか。正解は3年後に判明する。
(文=福井 晋/フリーライター)