1.アベノミクスの行方
アベノミクスの当初の3本の矢は、(1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略であったが、2017年は第一の矢、すなわち金融緩和中心の運営からの転換を迎える年となろう。
背景には、日本銀行が今年9月に金融政策の新しい枠組みとなる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を打ち出したことがある。具体的には、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)とオーバーシュート型コミットメント(CPI<消費者物価指数>上昇率が2%を安定的に超えるまで金融緩和を続ける)が設けられた。
今回の措置は、マイナス金利の副作用とマネタリーベース拡大の限界に対応したものであり、特に長期金利ターゲットの導入は量的緩和政策のテーパリング(金融資産の買い入れ額を減少させること)容認への転換を意味する。従って、新たな枠組みの下では金融緩和の効果は限定的となり、財政政策に依存することになろう。
こうしたなか、17年の内需をけん引するのは、秋の臨時国会で成立する事業総額28.1兆円の新経済対策、すなわちアベノミクスの第二の矢の効果であろう。経済対策の規模としては安倍政権で最大であり、リーマンショック時の対策を含めても過去3番目の大きさとなる。しかし、約半分の14.6兆円は政府系金融機関の融資枠や民間企業の自己負担分であり、実際の支出に結びつくかは不透明である。
また6兆円の財政投融資を除く国・地方の財政措置は約7.5兆円であり、うち今年度の第二次補正予算に計上されるのは現時点で5兆円程度である。このため、17年度のGDP押し上げ規模は2.5兆円(0.5%)程度にとどまろう。なお、解散総選挙の行方次第では、補正予算が追加される可能性もあろう。
2.日本再興戦略の展望
一方、2017年度は構造改革と規制緩和、すなわちアベノミクス第三の矢の再加速が期待される。背景には、政府が16年9月に政府の成長戦略や構造改革策等を議論してきた「産業競争力会議」と「未来投資に向けた官民対話」を統合して新たな司令塔「未来投資会議」を設置したことがある。本会議では17年1月に中間報告を行い、毎年6月頃に発表する「日本再興戦略」に反映することが予定されている。
未来投資会議の傘下には、課題分野毎に「ローカルアベノミクスの深化」「医療・介護」「企業関連制度改革・産業構造改革」「第4次産業革命・イノベーション」といった4つの構造改革徹底推進会合が設置されている。特に政府内では、法人税を減税しても賃上げにも設備投資にも消極的な企業への不満が高まっており、企業の内部留保が重要な論点になっている。