これまで、メイ首相は具体的な離脱交渉の内容、その後のロードマップを示してこなかった。そのなかで、単一市場からの離脱を表明すること自体、無責任との見方が出てもおかしくはない。先行きの経済への懸念も高まりやすい。そこで、首相はグローバル化を批判することで大統領の座を射止めたトランプ大統領に近づき、英国に有利な条件が確保できるよう、地ならしをしておこうと考えたのだろう。
保護主義政策の世界的な伝染リスク
今後、世界経済は主要国の政治に翻弄されていくだろう。米国の保護主義政策への報復措置が増えたり、米英のように自国優先の政治が進むと、徐々にグローバル経済の分裂と低迷懸念が高まる。特に、フランスの大統領選挙の結果次第で、大陸欧州各国にEU離脱と保護主義政策を求める世論が伝染する恐れがある。
フランス大統領選挙のリスクは、まさかのル・ペン氏の当選だ。同氏は、筋金入りの極右思想の持ち主であり、フランスのネイティブな国民の利益を重視し、EUからは離脱すべきと主張している。ル・ペン氏は、特定陣営の支持を受けない大統領候補であるマクロン前経済相が英語で演説したことを「フランス語を軽視している」と批判するほどだ。
直近の世論調査では、大統領選挙は第1回目の投票では決着がつかず、決選投票にもつれ込むと見られている。そして、第1回目の投票ではル・ペン氏に票が流れ、決選投票では、ル・ペン氏とともに残った右派のフィヨン元首相、あるいはマクロン前経済相が勝つとの見方が多い。ただ、英国の国民投票や米国大統領選挙を見る限り、世論調査が正しいとは限らない。
それだけに、ル・ペン氏の当選は無視できる確率だ、と決め打ちすべきではない。すでに、トランプ政権が保護主義政策を進めるなか、フランスの金利には上昇圧力がかかっている。これは、市場参加者がル・ペン氏に票が流れ、フランスの政治が米英のような、自国の利益だけを重視した、近視眼的なものにならないか懸念し始めたことを示している。目先の有権者の支持を確保するためには、米国同様、財政支出の増大、国債増発は避けられないだろう。
世界経済全体を通して、需要は供給を下回り、多くの人々は低賃金の環境に不満を感じている。それが、目先の大衆の利益を重視した“ポピュリズム政治”、保護主義政策の温床だ。短期間で需要の回復が見込みづらい環境下、米国の保護主義が欧州に伝染し、世界経済の先行き不透明感、低迷懸念は高まりやすくなっている。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)