そして、中東諸国に対するビザ発給の一時停止は、かなりの衝撃を国際社会に与えた。この大統領令を受けて、イラン政府は米国に侮辱されたと非難し、報復措置を検討している。米国内でも、「大統領令は違憲であり司法の判断にかけるべき」との声が出ている。
トランプ氏は、強硬な姿勢で交渉に臨めば、有利な条件を引き出せると考えているようだ。企業間の交渉なら、ある程度、通用するかもしれない。しかし、最終的には双方の経済的なメリットがあるかどうかが重要だ。リスペクトを欠くだけでなく、一方的に米国の利益を押し付けるのでは、相手が反発するのは当然だ。基本的な外交マナーを踏まえられていないことを見ると、先行きへの不安はどうしても高まる。
EUから離れて米国にすり寄る英国
一方、懸念の多い米国にすり寄ろうとする国もある。それが英国だ。1月17日、英国のメイ首相は英国がEU離脱(ブレグジット)を進める際、単一市場からも離脱することを表明した。その上で、メイ首相はEU、およびそれ以外の国と包括的な自由貿易協定(FTA)を締結し“世界に開かれた英国”を目指そうとしている。
1月27日、その手始めに、メイ首相は米国を訪問して首脳会談を行った。あえて首脳会談の成果を挙げるとすれば、北大西洋条約機構(NATO)へのコミットメントが重要である点が双方で確認されたことくらいだろう。それ以上に、英国には、今後の米国との関係強化が欠かせない。できるなら、米国が保護主義政策を進めるなかで、歴代の首脳が確認し合ってきた“特別な関係”を再認識し合い、自国第一の政策のおこぼれに与りたいとの思惑がうかがえる。
ブレグジットに関して、EUは一切の譲歩を行わないことを表明している。メイ首相は、離脱後も英国の企業が最大限、EUの単一市場にアクセスできるようにすると主張している。これは口で言うほど簡単なことではない。EUは人の自由な移動を認めることが、単一市場アクセスの条件としている。それよりも、英国は国境の管理と、司法権の確保を優先した。
この段階で、両者の溝が埋まることは想定しづらい。離脱交渉が所定の2年間で妥結するかは不透明だ。そして、EUと通商交渉を結び直し、EU加盟各国の議会承認を得る必要がある。最終的に英国のEU離脱が完了し、新しい通商条約がまとまるには、最低10年はかかるかもしれない。その点でブレグジットは、まさに“ハード”だ。