「実は、LCC各社は整備士の確保には非常に苦労しているのです。整備士というのは、そもそもJALやANAが必要とする数以上に養成してこなかった。大量に養成しても、就職できませんから。そのため、いきなりLCCが参入してきて、整備士が不足したのです。それに加えて、ジェットスターが保有するエアバス320は、国内ではこれまでANAしか保有していなかった。つまり、320の技術者はANAにしかいないのですから、そんな大量に整備士がいるわけがない。ほかの航空機の整備士に320のライセンスを取らせるにも、半年はかかる。オーストラリアのジェットスター本社から整備士を呼ぶにも、整備士の資格は各国で取得しなければなりませんから、日本の国内法などを勉強させなければならない。いずれにせよ、整備士を手当てする手段というのは、簡単にはありえないのです。そのような中での拡大戦略ですから、かなり無謀だったといえるのではないでしょうか」
厳重注意を受けた当時、ジェットスターの確認主任者は要件を満たしていない2人を含め14〜15人(現在は20人程度)、これで7路線24便を回さなければならないから、かなりきついスケジュールだ。しかも古参の整備士が急逝し、ローテーションがさらに厳しくなっていた。それでもなお、12月までに成田発着便の国内4路線28便、関空発着便の4路線20便まで増やすことを予定していたという。
実はジェットスター側もこの点は認めている。
「LCCというのは、収益を上げるために、スケールメリットや先駆者利益を得るため、路線を拡大していく必要がある。だから急速な拡大戦略を取らざるを得なかった。今、拡大戦略については社内の整備体制を配慮しながら慎重に対応している」
●主要株主JALの本音
このような中で出資し、主要株主でコードシェアをしているJALはどう対応するのか?
「うちはあくまでも出資しているだけですから、特に何かやるつもりはありません。エアバス320もありませんから、専門の整備士もいません」(JAL関係者)
JALはカンタス航空と並ぶ筆頭株主で、役員や社員を出向させ、創業支援をした立場だが、ジェットスターへのさらなる支援には非常に慎重だ。
「そもそもジェットスターは、日本のマーケットに非常に関心を持ち、国交省が国内でLCCの参入の準備をしていたときにも積極的に協力していたのです。しかしジェットスターが国内で事業をするためには、外資の出資制限などがあったことから、国交省としては日本の慣習などをよく知っている国内のキャリアに資本参加させたかった。しかしANAはすでに独自でLCCの準備を進めていたことから、JALに白羽の矢が立ったのですが、JALは本当はあまり乗り気ではなかった。
しかも最初は3分の1を出資していた三菱商事も、伊藤忠関連の会社に保有株を半分売却してしまった。このままでは、JALはジェットスターを国交省から押し付けられかねない。それはJALにとっては不本意です。JALもジェットスターに何かあれば、いつでも手を引けるように、マイノリティー出資の形をとっているわけですから」(業界関係者)
ジェットスターは14年までに航空機を24機まで増強する予定で、成田-大分線、中部(中部国際空港)-福岡線、成田-札幌線が3月31日から就航を開始し、成田-鹿児島線、中部-鹿児島線などの就航も予定している。果たして進められる拡大戦略に、十分対応できる体制が社内でつくられているのか。ジェットスターの今後が注目される。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)