首脳会談で日米の両政府は、“日米経済対話”を進めることに合意した。これは、財政・金融政策、インフラやエネルギー面での協力、貿易の3分野を対象とする取り組みだ。実際の議論では、日本の金融政策や、自動車の輸出など、個々の分野で米国が配慮を求め、交渉が難航する可能性がある。
次に重要なことは、首脳会談のタイミングに合わせて北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことだ。北朝鮮にはミサイルを発射して米国を威嚇し、経済政策の解除などを検討させようとの目論見がある。しかし、北朝鮮のミサイル発射は日米が安全保障面での連携強化を正式に確認し合う、重要な機会を提供した。
今後の展開予想
今回の首脳会談の成果は、米国が100%日本とともにあることを明言したことだ。半面、米国には「安全保障で日本の顔を立てたから経済面ではこちらの要求をのんでもらう」との認識があってもおかしくはない。そこで、政府は日本の金融政策が通貨安を狙ったものではないことなど、事実を正確に伝えていくべきだ。その上で、日米の連携が世界経済の安定に不可欠であることなど、正しいことを正しく米国と共有すべきだ。そして、米国との交渉に加え、わが国はアジア太平洋地域の国との経済連携も進める必要がある。
大統領への正式就任とともにトランプ政権は、TPP(環太平洋パートナーシップ)からの離脱を表明した。これを受けて、多国間の経済連携がどうなるかは不透明だ。すでにニュージーランドは米国抜きでのTPP成立を目指し、各国政府との交渉を目指している。これは、米国離脱後の多国間連携がどうなるかとの不安の表れだ。
中長期的な世界経済の安定には、経済連携の深化を通した自由貿易体制の維持と強化が欠かせない。それが、自由かつ公正な競争環境の整備につながる。そのために、米国の関与は不可欠だ。米国の関与が弱まってしまうと、その隙をついて中国がアジア地域での覇権強化を目指し、国際社会の不安定感は高まるだろう。
反対にいえば、多国間の連携を進めることができないと、日本はかなり厳しい状況に直面する可能性がある。米国が保護主義政策や対外強硬策を続ければ、世界規模で貿易競争などが進み、世界経済全体の安定が損なわれる恐れがある。そのタイミングで米国経済が減速し始めると、一段と各国の需要囲い込みに拍車が掛かる可能性がある。その場合、日本の景気には下押し圧力がかかり、デフレ脱却は遠のくはずだ。
実際に各国が保護主義政策を導入し始めると、公正かつ公平な競争環境を議論することは難しくなるだろう。そうなる前に日本は動くべきだ。政府は速やかに米国との対話を進め、それを広範な経済連携につなげていくことが求められる。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)