東京商工リサーチの「2015年度 全国第三セクター鉄道63社 経営動向調査」によると、半数以上の35社が経常赤字だった。IGRのような旧国鉄転換型の第三セクター鉄道は31社中、経常赤字が26社と大半が苦戦を強いられている。このなかで、IGRは数少ない黒字組なのである。過去5年間の営業収入と純利益の推移は次の通りである。
※営業収益、当期純利益
・11年度:38億6172万円、3億1163万円
・12年度:40億3274万円、2億3473万円
・13年度:41億6255万円、2869万円
・14年度:45億2328万円、3億8337万円
・15年度:42億8960万円、1億740万円
営業収益は40億円前後で安定している。13年度の純利益が大きく減ったのは、台風による鉄道施設の被害が膨らんだ結果だ。災害の影響やJR寝台特急の運行終了といった逆風を受けながらも、6期連続の黒字を達成しようとしているIGRの奮闘ぶりが光る。
地域のニーズに応じた細やかなサービスが奏功
IGRの営業キロはわずか82キロにすぎない。駅数は17。沿線の最大の都市は県庁所在地の盛岡市(人口約30万人)で、第2の二戸市は人口約2万9000人。典型的なローカル線である。それにもかかわらず6年連続黒字なのは、沿線住民のニーズに沿ったオリジナルなサービスを展開しているからだ。
その代表例が、「IGR地域医療ライン」。盛岡の総合病院に通院する沿線住民が多いことに着目し、岩手町、一戸町、二戸市の各駅から盛岡市内の病院に通う利用客向けに往復で2割以上も安い「あんしん通院きっぷ」を発売中だ。たとえば、二戸駅から盛岡駅往復は通常だと3900円のところ、あんしん通院きっぷだと2900円で、割引率は約25%にもなる。行きの列車は限定されているが、帰りは自由。列車にはアテンダントがいて、病院に通う利用客のサポートにあたる。2両編成の列車の後方車両全席が通院客の優先席で、盛岡駅では総合病院向けのタクシーを一律200円で利用できる(相乗り)サービスもついている。高齢の通院者にとっては、なんともありがたいサービスである。
大学生限定の特別企画定期券「Campass」、路線バス定期がセットになった「Campassプラス」も好評だ。4月から3月まで1年間利用できる定期券で、1カ月の通学定期に比べ33%から最大54%も安くなっている。
高齢者の通院客、沿線の大学に通う学生といった地域ニーズをしっかりと受け止めたサービスが支持されているのである。盛岡市内の青山駅へ本社移転したことによって、さらに地域活性化を図る。IGRは、こうしたきめの細かい取り組みで、経営の安定化を目指している。
北海道のローカル線は存亡の危機に立たされている。IGRのビジネスモデルは、大いに参考になるのではないのか。もちろん、鉄道会社だけでなく、沿線自治体や住民の協力なくしては、経営の安定化は成り立たない。第三セクター鉄道やローカル線は慢性赤字というイメージが強いが、営業距離が短くても経営手法次第で黒字化は可能だということを、IGRは示してみせた。
(文=編集部)