残業時間の上限規制について、「繁忙期は月100時間未満」となることが決定された。しかし、それを伝えるメディアの記事を見ても、きわめてわかりにくい。
そもそも、多くの会社員は与えられた仕事が終わらず遅くまで働いているものの、それが法的にどう位置づけられているのか、知らずに残業している場合も少なくないのではないか。
そこで、労働問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏に一から解説してもらった。
「まず、労働基準法に定められた法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間です。しかし、労使の間で36(サブロク)協定を結ぶと、会社はそれ以上の時間、従業員を働かせることができるようになります」(溝上氏)
36協定は、会社と労働組合が結ぶのが基本。労働基準法第36条は、以下のようになっている。
「(労使で)協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、(中略)その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」
協定を結ぶことによって、雇われている労働者も納得して残業しているということになるわけだ。
「36協定を結んだ場合でも残業の上限はあり、月45時間、年間360時間です」(同)
では、今回の「月100時間未満」とは何を指しているのか?
「36協定の中に『特別条項』というものがあります。これを用いることによって、それ以上の残業もさせられるようになります」
特別条項の条文は、以下のようになっている。
「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る。)が生じたときに限り、(中略)限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる」
「臨時的」と書かれてはいるが、多くの企業が、この特別条項を用いることによって長時間労働をさせている実態がある。この特別条項による残業に上限を設けようというのが今回の決定である。
悪用する経営者や“闇残業”が増える可能性も
3月13日、安倍晋三首相は日本経済団体連合会(経団連)の榊原定征(さだゆき)会長、日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生(りきお)会長と首相官邸で会談を行い、繁忙期の残業上限を「月100時間未満」とすることで決着した。
「月100時間未満の残業が認められるのは、年のうち1カ月のみです。それ以外は、まず6カ月は45時間にしなくてはならないという前提があります。そのほかの6カ月で平均80時間以内、うち1カ月が100時間未満ということです。年間の合計も720時間という上限が設けられました」(同)
毎月100時間残業しているというのはよく聞く話だし、200時間残業という話もまま聞く。100時間未満の残業ができるのが年に1回(1カ月)と限られるのであれば、今回の決定を評価してもいいのだろうか。
「今までは、労使で協定を結べば青天井でいくらでも残業ができたんですよ。今後は労働基準法を改正して、残業時間の上限を超えた従業員が1人でもいた場合、企業の責任者に懲役や罰金刑などの罰則が科せられるようになります。そんなことになったら大打撃ですから、企業も自助努力をするようになるでしょうね」(同)