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【ゼロから徹底解説:混沌化する欧州】各国一斉に極右化、自国第一主義で他国排斥

文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授
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 ユーロ圏を中心に欧州各国の経済がこうした状況に耐えられるかは不透明だ。なぜなら、南欧を中心に各国の財政状況は不安定だからだ。イタリアでは、銀行の不良債権処理が進まず、状況次第では金融システム危機不安が高まるかもしれない。こうした状況を克服するには、政府が不良債権処理などの構造改革を進め、経済の足腰を支えることが欠かせない。そのためにイタリアでは、憲法を改正し上院の権限を縮小することは不可欠だった。

 昨年12月、憲法改正を問うた国民投票では、この改革案が否決されレンツィ前首相は辞任した。本来必要な改革であっても、それを進める政治家への反発心は強い。それが、構造改革の遅延、不満を取り込む近視眼的な政治への支持拡大につながっている。

楽観できないEUの政治不安定化

 
 経済の潜在成長率が低下した場合、規制緩和や新規産業の育成といった構造改革を進めることが不可欠になる。そのためには多様な利害関係を調整し、長期の目線で必要な措置を講じていく政治の安定、リーダーシップが不可欠だ。そして、構造改革が企業のイノベーション(創造的破壊)を進める力につながり、雇用、所得の増加を支えると考えられる。欧州の場合、こうした取り組みを共同体のレベルで進めなければならない。

 足許、世界の政治の流れを見ていると、必要不可欠であり、かつ正しい構造改革であっても、それを進めることはかなり難しい。入国制限などをめぐって物議を醸している米国のトランプ政権の誕生はその一例だ。

 4~5月にかけて実施されるフランス大統領選挙は、欧州の政治混乱に追い打ちをかける可能性がある。世論調査などでは中道派のマクロン氏が、極右・国民戦線のルペン党首よりも優勢との見方が多い。それでも、英国でのテロの発生などによる移民、難民に対する欧州各国での恐怖心は、右派への支持を高めやすい。新たなテロが発生すれば、ルペン氏に支持が流れる可能性もある。ルペン氏の当選がないと決めてかかるのは尚早だ。ルペン氏以外の候補が大統領に当選したとしても、改革を進めることができなければ、ゆくゆくは政治の不安定感が高まる可能性もある。

 年内実施が遠のいたとみられるイタリアの総選挙は、来年に実施される可能性がある。地方選挙で躍進しているポピュリズム政党“五つ星運動”の支持率は、与党民主党を上回っている。五つ星運動は他の政党との連立には否定的だ。しかし、今後の状況次第では、五つ星運動が他の政党との協力を模索し、真剣に政権与党の座を目指す展開もあるだろう。そうなると、イタリア国内の政治混乱に加え、他のユーロ圏各国にも自国第一を掲げる政治の波が、ドミノ倒しのように押し寄せる展開も排除できない。当面、欧州各国の政治・経済は波乱含みの展開が続く可能性がある。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)

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