「社内にカジノ反対派はたくさんいますが、大きな声になりません。日枝久会長がお台場への誘致に躍起になっているからです。遠藤さんはそんな日枝会長の意に沿って先頭で動いてきました。社長になるとすれば、お台場カジノをさらに推進しようということでしょう。だから、制作畑で目立った実績がなくても問題ないわけです。しばらくは視聴率競争で巻き返すのは難しいのではないかという空気も、社内にはあります」
前出の夕刊紙記者もこう補足する。
「フジのカジノ構想の前に立ちはだかったのが、カジノ慎重派の舛添要一前東京知事でした。フジの舛添攻撃はかなり露骨で、例えば昨年5月、『Mr.サンデー』では番組スタッフが舛添氏の妻・雅美さんを直撃取材していました。また、別の回では舛添氏の“初恋の相手”とされる女性宅を直撃取材していました。舛添氏は『フジだけは許せない』と激怒していたといいます」
では、フジはIR特区を誘致できるのか。話はそう簡単ではない。現在のところ、横浜市と大阪市も手を挙げているが、横浜市は菅義偉官房長官の地元だ。小池都知事もカジノ推進派だが、今のところ、それほど前のめりになってはいない。また、安倍政権の小池都知事への敵対心を考えれば、東京への誘致はしづらいだろう。
ところで、報道されているのは遠藤氏の次期社長内定説だけだが、フジ社内では他の人事情報のウワサも囁かれている。フジ関係者がその内容を明かす。
「フジHDの役員序列は、日枝会長がトップで、2番目が豊田皓副会長、3番目が嘉納修治社長、4番目が金光修専務です。嘉納社長は実直な経理屋という印象ですが、金光専務は“超ゴマスリ”との評判で、遠藤さんの上司だった人です。遠藤さんがフジテレビの社長に昇格するのと同時に、フジHDも社長が金光さんに交代するかもしれないと噂されています」
日枝会長はここ数年、自身は会長職に居座り続けながら、フジテレビの社長とフジHDの社長の首をすげ替えてきた。視聴率低下や業績悪化の責任を部下にとらせてきた格好だ。今年6月のフジHD株主総会ではどんな役員人事が飛び出すのか、見ものである。
裁判で明らかになった「ヤラセ体質」
フジHDの株主総会をめぐっては、同社は頭の痛い問題を抱えている。フジHDが14年6月と15年6月に開催した株主総会に対し、株主2人が決議取り消しを求める訴訟を起こしていた。東京地裁(大竹昭彦裁判長)は14年分については昨年12月に、15年分については今年2月にそれぞれ、原告の訴えを棄却する判決を下した。フジHDの勝訴である。
しかし、これら2つの裁判で原告側が追及していたのは、フジHDの「ヤラセ総会」の実態だ。14年総会の質疑応答では、質問した16人の株主のうち8人がフジテレビの社員株主だったことが、裁判を通じて明らかになっている。同様に15年の総会では、質問者17人のうち5人がフジテレビの幹部社員だった。
株主総会は一般の個人株主にとって、会社の経営状況を質すほとんど唯一の機会だ。会社側の息のかかった人物が多数質問することにより、“本物の”一般個人株主の質問機会は減ってしまう。
ヤラセ質問の所在は、原告側に寄せられた内部告発によって明らかになったものだ。裁判では、原告が指摘した人物がフジテレビの統括当局長や局次長、部長といった経営中枢幹部であったとフジHDも認めた。
ヤラセ質問はフジHD兼フジテレビ総務部長の指示に沿って行われた。同部長の証言によれば、14年の総会ではリハーサルが2回行われ、日枝会長もこれに参加していたという。
東京地裁は14年の総会について、「総会の決議方法に不公正な点があった」「総会での会社側の説明は適切さを欠く」と認めた。しかし、15年総会の判決にはこれらの文言がなく、原告側は「後退した印象」と語る。原告側はすでに東京高裁に控訴しており、日枝会長を頂点としたフジHDのヤラセ体質への追及は今後も続くことになる。
(文=編集部)