4月6日、米国がシリアに向けてトマホークミサイルを発射したことを境に、世界の金融市場で地政学的リスク(地政学リスク)への警戒感が一挙に上昇した。地政学的リスクとは、特定の地域での政治・軍事的な緊張から経済の先行き不透明感が高まることをいう。
米国のトランプ大統領はシリアへのミサイル攻撃を通して、核開発やミサイル発射などの軍事的挑発を続ける北朝鮮に警告を発した。そこには、中東での影響力拡大を狙うロシアをけん制し、北朝鮮を制御しきれていない中国に圧力をかける目的もあった。従来、米国政府は同盟国との関係強化、経済制裁などにより世界の安定を目指してきた。この考え方に比べ、トランプ政権は軍事力の行使という“力の論理”を重視している。近年、こうした措置が取られた例はなかった。
多くの投資家は前例のない米国の行動を受けて、世界の政治・経済の先行きがどうなるか懸念を募らせている。それが、世界的な株安、金利低下、ドル売りにつながっている。特に、ヘッジファンドのなどの大手投資家は、昨年11月8日以降に進めたドル買い・円売りを解消し、円を買い戻している。
今後、地政学的リスクの上昇から投資家が先行きへの懸念を強めた場合、世界の金融市場はさらなるリスクオフに向かうだろう。先行き不透明感の上昇が米国の消費者心理の悪化などにつながれば、世界経済全体が危機的な状況に直面するおそれもある。
一段と緊迫化する朝鮮半島情勢
今、多くの投資家が注目しているのが、米国が北朝鮮に対してどのように圧力をかけ、それに対して北朝鮮がどう反応するかだ。米国からの圧力に対して、北朝鮮は強硬姿勢を強めている。
北朝鮮の暴走を抑えるためには、中国の役割が重要だ。ただ、保護主義政策を進めて米国の輸出拡大などを実現したいトランプ政権にとって、中国は無視できない“貿易不正国”でもある。なぜなら、米国の貿易赤字の約半分が中国からの輸入によるものだからだ。
本来であればトランプ政権は、中国を為替操作国に認定し、米国の輸出拡大に有利な条件を引き出したい。それでも、朝鮮半島情勢の安定には中国の力が不可欠だ。やむなく、トランプ政権は為替操作国への認定を見送ることで、中国に配慮を示した。
中国の本心としても、北朝鮮には現実的な行動を求めたいはずだ。北朝鮮が過度に米国との対決姿勢を強め、朝鮮半島情勢が緊迫化すると、中国国内での不安心理も高まりやすい。状況が悪化すると、米国だけでなく国際社会全体が中国による北朝鮮への圧力を求めるはずだ。