米国と北朝鮮のにらみ合いが激化し、開戦が間近との報道が続いている。だが、中国事情に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏は、「米国は北朝鮮の核保有の問題を、まだ対ロシアや対中東の問題と比較して優先順位が高いとは判断していない」とみている。その根拠は、中国に対北朝鮮政策の仲介を要求していることである。
「米国が本気なら、中国に圧力をかけることを依頼するような“人任せ”にしないで、自国が直接乗り出して北朝鮮と交渉するだろう。中国を間に入れていることから、アメリカは本気で力を行使する段階にはまだ至っていないと考えているのではないか」(富坂氏)
しかも現時点で、米国には北朝鮮に軍事攻撃を仕掛ける正当性がない。軍事攻撃の正当性があれば国連軍が出動すればよいので、米国が単独で攻撃すべき問題ではない。米国に攻撃の正当性が付与されるのは、北朝鮮が在韓米軍をはじめ米国に軍事攻撃を仕掛けた時で、「そこで初めて米国は北朝鮮に対して軍事攻撃を開始することになるだろう」(同)という。北朝鮮軍と韓国軍・在韓米軍との間で戦火が交わる事態に至るが、中国とロシアが協調して阻止に動き、早期に鎮静するとの見方が強い。
14日には、ティラーソン国務長官に続いてトランプ大統領も、北朝鮮の体制転換を求めない方針だと米メディアが報じた。
「日本では、米国が金正恩朝鮮労働党委員長の斬首作戦を選択肢に加えていると報道されているが、米国は斬首作戦を考えていない。じつはトランプ政権はオバマ政権よりも、北朝鮮との対話のハードルを下げている」(同)
なぜ、対話のハードルを下げたのか。その理由を探るヒントは、ティラーソン国務長官が体制転換を求めないことをほのめかした時期にある。それは、トランプ大統領と習近平国家主席との首脳会談が終わった後のことだった。
「習近平がトランプに対して『中国が北朝鮮に核実験やミサイル発射を阻止するように動くから、米国もオバマ政権時代よりも対話の道を開いてほしい』と確約を取り付けたことが考えられる」(同)