受験シーズンも終わりに差しかかり、SNS上では悲喜こもごもの声があがっている。そんななか、関東の中堅大学グループ「日東駒専」に大きな変化が出ていると報じられている。今年の大学受験では、どのような傾向があったのだろうか。
各大学の発表などを見ると、日東駒専(日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学)のなかで、東洋大が志願者数を大幅に増やし“一人勝ち”状態だ。駒大、専大も小幅ながらも志願者数が増えているが、日大は前年比3割近く減らし“一人負け”の様相を呈している。
日大はここ数年、不祥事が続出し、ブランド失墜といわれながらも志願者数は大きく減らなかった。2018年にアメリカンフットボール部の“悪質タックル”で日大は批判にさらされ、21年には背任事件で理事などが逮捕されたほか、田中英寿理事長(当時)も脱税や所得隠しなどの疑いで逮捕された。それでも評価が落ちたのは一過性で、経営に影響を与えるほどの志願者の減少ではなかった。
しかし、昨年8月にアメフト部の学生寮で大麻や覚せい剤が見つかったにもかかわらず、大学側が隠蔽を図ったとして第三者委員会から強く批判された。さらに12月には看板学部である芸術学部の准教授が学生と不適切な関係にあったことが報じられ、話題になった。
これらの不祥事を受け、経常費補助金(私学助成)が3年連続で全額不交付とされるなど、日大ブランドは地に落ちたかにみえる。だが、文系学部では志願者数が大幅に減ったものの、理系学部ではほとんど減っていない。その理由を大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は次のように分析する。
「日大が文系で志願者数を大きく減らし、理系ではそれほど減らさないのは、競合校が少ないからです。文系だと、日東駒専クラスの他校(東洋・専修・駒澤)と競合します。学部数だと延べ20学部(東洋8、専修6、駒澤6/理工系・文理融合系・スポーツ系などは除く)。
一方、理系だと専修・駒澤は理系学部なし。東洋大は理工学部や生命環境学部など5学部あります。理系はこのように競合する学部が文系に比べてはるかに少なく、その結果、文系ほど減少していません」(石渡氏)
では、今年の大学受験において、日大のほかに受験者数が大きく減っている大学・学部はあるだろうか。また、それはなぜか。
「学部系統では、生活科学系統が前年比88%。他の学部系統は伸びるか減るとしても微減でとどめているなか、数少ない負け組となってしまいました。
背景には昨年の女子大2校の募集停止があります。コロナ禍前の2010年代から女子高校生の間でもキャリア志向が高まり、法学部や経済系学部などにシフトしていました。この動きがコロナ禍以降も続き、22年度比で54.3%と大きく落としています。この生活科学系学部の不人気は、今後も続いていく見込みです。
これを受けて、女子大も伸びているところがある半面、昭和女子、日本女子、京都女子、同志社女子、武庫川女子などは落としています」(同)
では、難関大学グループとされる「GMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)では、何か大きな動きはあったのだろうか。
「今年はあまり変化がありませんでした」(同)
青学大、駒大などは、入試シーズン直前に行われる東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で話題性が高まるように思えるが、受験者数などに影響はあるのだろうか。
「箱根駅伝や東京六大学野球などスポーツの活躍で主要校の志願者数が大きく変動することはありません。ただ、青山学院大学の場合、箱根駅伝で2010年代以降、優勝の常連校となりました。同時期に原晋監督がワイドショーなどにレギュラー出演するようになります。これにより、青山学院大学の好感度は相当、上がっています。しかも同時期にキャンパスを都心の渋谷キャンパスに集約(一部は相模原キャンパス)。こうした複数の要素が重なり、GMARCHクラスの中では明治大学に次ぐ2番手にまで伸びています」(同)
今期、ほかに大学入試で特徴的だった出来事はあるだろうか。
「学習院女子大学が大幅に増加しました。背景には、2023年に公表した学習院大学との統合があります。現在の学生は2026年に学籍が学習院大学となるため、それで人気が急上昇した、とみられています」(同)
他方、「西のGMARCH」ともいわれる「関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)」。同志社大の評価が頭一つ抜けているとの声もありますが、実際はどれほど差があるのだろうか。
「偏差値のうえでは同志社がやや上で、他はほぼ同じです。就職面でも、売り手市場の現在は企業からすれば『関関同立』でひとくくりにしています。ただし、古い体質の企業は同志社が一段上、兵庫県内では関西学院のブランド力が強くあります」(同)
最近の報道では、関西大学が低迷しており、成長著しい近畿大学を代わりに入れて「近関同立」になるとの表現もあるが、近畿大学はどれほど人気や偏差値などが高まっているのだろうか。
「近畿大学は新学部設立やマグロなどの研究、あるいはつんくプロデュースによる入学式などで知名度・イメージとも大幅に向上。志願者数も大きく増やし、日本一となっています。関関同立に追いついた、とまでは言いませんが、『近関同立』または『関関同立近』と言われてもおかしくないくらいの位置にまでは成長しています」(同)
ほかに今年の関西圏の大学特有の受験事情はあるだろうか。
「神戸女学院大学が前年比333%と、大幅に上昇しました。国際学部、心理学部の新設で一気に人気化した、とみられます。関西学院大学は2024年2月、三ノ宮駅のすぐ隣・王子公園に新キャンパスを設立し学部新設の計画を発表しました。立命館大学は3月に、デザイン・アート学部(仮称)を2026年、衣笠キャンパス(京都市)に新設する計画を発表しました。今後も、大規模校を中心に新学部を設立し、学生獲得を目指す動きは続く、とみられます」(同)
近年、少子化の影響が顕著に表れており、人気のある大学には学生が集まる一方、学生確保に苦労している大学も増えている。学生獲得競争は今後も過熱していくのだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)