それは、習近平国家主席を“核心”とする共産党の独裁政権に対して、中国の国民が不安や不満を抱く要因になるおそれがある。秋の党大会に向けて支配基盤を整備したい習国家主席は、なんとしてもその状況を避けたい。中国は、北朝鮮の自制の重要性は認識しつつも、どちらかといえば、対外的な圧力に屈さず覇権強化を重視し、国威発揚を優先するだろう。
この見方が正しいとすると、米中が接近し、利害を一にすることは容易ではない。それを見越して、北朝鮮は制裁の解除などを求めてさらなる強硬姿勢を示し、朝鮮半島情勢が一段と緊迫化する恐れがある。中国は米国と北朝鮮に自制を求めつつ、自国の判断で平和的解決を模索するだろう。それがすぐに進むかは不透明だ。
中国の迅速な行動を後押しするためには、十分な外交経験を持たない米国のトランプ大統領が口を慎み、水面下で米中間の関係強化を進めることが欠かせない。
トランプ政権は現実路線に回帰せよ
トランプ大統領は議会の承認を取らず、独断でシリアにトマホークミサイルを発射した。今後も米国が軍事力=ハードパワーを行使して影響力の拡大を狙うなら、状況は一段と不透明になるだろう。
歴代の政権に比べると、トランプ政権の意思決定のあり方は、かなり異なる。米国の政治力や価値観といった“ソフトパワー”よりも軍事力を重視して影響を及ぼそうとするのは危険だ。それは世界が、これまでの経験や発想が通用しづらくなる“非連続の時代”を迎えたことと言い換えることもできる。
非連続の時代は、各国の経済にとって好ましいものではない。先行きがどうなるか予想がしづらいなか、世界各国の企業、投資家、消費者は先行きを懸念し、リスク回避を優先するだろう。それが設備投資や消費の下振れにつながり、世界全体の需要が低迷する懸念がある。
この状況を回避するためには、トランプ政権が歴代の政権が重視してきた外交政策を重視しなければならない。米国は、同盟国を中心に各国との関係を強化し、対話による世界の安定を目指すべきだ。それが、米国、そして世界にとっての現実的な路線といえる。
そのためには、トランプ政権が外交や軍事に従事する主要ポストの人員配置を急ぐ必要がある。トランプ大統領は、米中首脳会談で協調を示しはしたものの、具体策を示すことはできなかった。それへの焦りもあったのか、米国政府は米中間の貿易不均衡を解消するための「100日計画」をまとめた。期限を定めた以外、この計画の詳細も示されていない。