合理性の立証
では、どのように法律を変えるのか。
まず、ヨーロッパにおける正規と非正規労働者間の待遇格差を禁じたEUの労働指令などを参考に、「待遇の相違は合理的なものでなければならない」とする差別禁止の条文を現行の労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法に入れる。条文を「待遇の相違は合理的なものでなければならない」という書きぶりにすれば、裁判では会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生することになる。
つまり、正社員となぜ違うのかと聞かれたときに会社側に説明責任が発生し、裁判規範としての立証責任が会社側に生じ、会社側はその差について合理性があることを説明しなければいけなくなる。これによって労働者は裁判に訴えやすくなるというわけだ。
実現会議のメンバーでもある水町教授も「待遇の相違は不合理なものであってはならない」と法律で規定すると「労働者が待遇の相違が不合理であること立証」することになり、「待遇の相違は合理的なものでなければならない」と規定することの必要性を実現会議の場でこう説明している。
「ここでより重要なのは、労働者の待遇について制度の設計と運用をしている使用者に、待遇差についての労働者への説明義務を課し、労働者と使用者の間の情報の偏りをなくすことです。これによって、待遇に関する納得性・透明性を高めるとともに。不合理な待遇差がある場合にその裁判での是正を容易にすることができます」(第6回働き方改革会議<議事録>より)
労働裁判に詳しい弁護士も「合理的なものでなければならない」と規定すれば「非正規と正規との賃金格差に違いがある場合、まず同一労働か否かを判断し、同一労働と認められれば不利益取扱いが推定されるために使用者は積極的に合理性の立証が求められる。もし使用者が積極的に合理性を立証できなければ違法になってしまう」と指摘する。
労働者に立証責任
だが、実際に問題となるのは、どういう場合が合理的であり、合理的でないのかという裁判や企業の指標となる合理的理由の有無の基準である。そこで具体的な処遇の目安として法律の施行前にガイドラインを策定することになったという経緯がある。
そして問題のガイドラインである。当初は早ければ今年春にも一定の効力を持つ「政令」として出し、企業労使の格差是正を促す“露払い役”を期待し、その後に法律を改正するというシナリオを描いていた。