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白井美由里「消費者行動のインサイト」

日常でより多くの幸福感を得る諸条件とメカニズムの研究結果…フローと消費者行動分析

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 また、エネルギーをあまり必要としない休息やテレビ視聴では生じにくいことも報告されています。くつろぐ時間は必要ですが、自由時間の多くをこうした受け身的な活動で過ごしていてもフローは体験できないのです。さらに、家族と過ごす時間も、明確な目標がなく自分の行動の評価ができないことや自分のスキルをフルに活用しているように感じないことから注意散漫になり、フローは生じにくいようです。

オンラインのフロー

 フローの概念は、1990年代に入ると人とコンピュータのインタラクションの分析にも採用されるようになりました【註3】。なかでもホフマンとノヴァクが示したオンライン上のフロー概念は有名で、「機械とのインタラクションによる絶え間ない連続的なやりとり、本質的な楽しさの存在、自己意識の喪失、自己強化の4つで特徴づけられるオンラインのナビゲーション中に生じる状態」と定義しています【註4】。のちに実証研究も行っています【註5】。

 オンラインのフローは通常のフローと共通する点も多いですが、特徴的な要素もいくつかあります【註3】。一つ目は統制感で、自分の行動だけでなく、オンライン環境でのやり取り(コンテンツの選択や放棄など)に統制感が生じます。二つ目は双方向性で、その感じ方はスピード、範囲(選択可能なアクション数)、マッピング(インタラクションの自然らしさや直観性)、使いやすさの組み合わせで決まります。三つ目は自分がその媒体の中に存在するような感覚、すなわち「遠隔操作感覚」があることで、その感じ方は鮮明さ(転送される情報量)、双方向性、環境内のアクティブな他者の数で決まります。四つ目は好奇心で、オンライン環境の中でさまざまな選択肢や機会を探索する欲求が生まれ、自己刷新につながります。

オンラインのフローと消費者行動

 オンラインのフローは、消費者行動研究においても数多く行われてきましたが、フロー自体、フローの先行要因、フローの結果それぞれの捉え方に違いがあるため、分析結果もさまざまです。しかし、一貫している結論として、フローは、サイトの評価や再訪問意図、オンライン購買態度、ブランド態度、ならびに購買意図を高めることが示されています【註3、註6】。したがって、フローを生み出すサイトをデザインすることは重要といえます。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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