山手線から豪華列車まで…鉄道車両生産の知られざる全貌 歴史的転換と戦う現場
昨年8月、タイ・バンコクで初の日本製車両が走り出した。「パープルライン(チャローン・ラチャタム線)」用車両がそれで、製作したのはJR東日本傘下の車両メーカー総合車両製作所(以下J‐TREC)だ。
もともと東急グループの鉄道車両製造会社「東急車輛製造」だったのを、2012年にJR東日本が買収し、J‐TRECとして発足した。ステンレス製車両のパイオニアで、14、15年には、北陸新幹線用車両「E7系」6編成を製作。今年5月にJR東日本が運行を開始した豪華寝台列車「トランスイート四季島」の5、6、7号車の製作を手掛けた。
ステンレス製通勤電車から優等車両、新交通や路面電車、分岐物や鉄道コンテナなども手掛け、高い技術力を誇る。国策として鉄道インフラの輸出が推進されるなかで、J‐TRECは通勤車両「サスティナ」を武器に海外市場への進出に積極的だ。
J‐TRECは16年3月期の売上高が約430億円だ。設立10年にあたる23年に売上高1000億円を掲げる。達成に向けて、いかなる戦略を描いているのか。同社社長の宮下直人氏に聞いた。
片山修(以下、片山) 宮下さんは、総合車両製作所の発足当時からトップを務めていますね。
宮下直人氏(以下、宮下) はい。もう6年目になりますね。
片山 「パープルライン」に納めた63両は「サスティナ」と呼ばれる車両です。「サスティナ」について教えてください。
宮下 「サスティナ」は、海外向けと国内向けがあります。海外向けは、当社の最も得意である、ステンレス製の車両をすべて「サスティナ」と呼んでいます。一方、国内向けは、J‐TRECの新技術が搭載された最新車両のみを「サスティナ」と呼んでいます。
国内向け「サスティナ」は、いわば“コンピュータ電車”です。ITの発達によって、さまざまな情報のシステム処理が可能になっています。
片山 山手線「E235系」は、それですね。国内初導入の量産型「サスティナ」ですよね。
宮下 はい。例えば車内広告は、液晶ディスプレイを増やして、フルデジタルサイネージとなっています。人の手で一枚一枚取り換えていた広告を、一瞬で切り替えることができます。
片山 車内広告は、貼り替え作業の人手不足が悩みの種と聞いていましたからね。
宮下 そうなんです。紙の中吊り広告は残していますが、お客さまへの訴求効果はフルデジタルサイネージのほうが圧倒的に高いと考えています。
片山 わかります。IT化の例は、ほかに何がありますか。