一番心に残る仕事は、東京・六本木1丁目の泉ガーデンタワーの再開発事業。「100人近い地権者を説得し、理解を得て事業を進めるのは苦しい仕事だったが、大きな経験になった」と振り返る。
【ホテル業】
帝国ホテルは定保英弥(さだやす・ひでや)氏(51)が4月1日付で社長に就任した。前社長の小林哲也氏(67)は代表権のある会長に就いた。定保氏は東京都出身。84年学習院大学経済学部を卒業、帝国ホテルに入社。営業部門を歩き、09年取締役兼常務執行役員兼帝国ホテル東京総支配人、12年から専務兼帝国ホテル東京支配人を務めていた。
「昨年10月に開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会のメーン会場としての大役を果した」ことで、小林氏は定保氏にバトンタッチすることを決めた。定保・新社長は「日本の迎賓館として開業した帝国ホテルの原点に立ち返り、サービスをより高めたい」と意気込みを語る。
【総括】
今年は人事の当たり年だった。4月に入ってからも社長交代の発表が相次ぐ。
浮かぶ人もあれば沈む人もある。悲喜こもごもの人生模様が繰り広げられる。経営者に人を得るかどうかは企業の盛衰に直結する。トップ交代を機に蘇える企業もあれば、逆に、衰退を早める企業もある。
これまで数回にわたり新社長の顔ぶれを取り上げてきた。そこに一つの特徴が浮び上がる。これまで社長を出したことのない部門の出身者が目立つことだ。
三井造船は過去4代の社長は造船部門出身者だったが、新社長に就く田中孝雄氏は船舶エンジン部門の出身。
三菱重工業も同様。歴代社長は技術畑出身だったが、新社長となる宮永俊一氏は事務系出身。技術系以外の社長の誕生は42年ぶりである。
東芝も新社長に就く田中久雄氏は調達部門出身。東芝の長い歴史の中で調達部門から社長が出るのは初めてだ。
これは何を意味するのか。企業が変革期を迎えているということだ。これまで成功をもたらしたビジネスモデルでは環境の激変に対応できなくなり、従来のビジネスモデルは、まともに機能しなくなった。本流である事業部や本社の経営企画などの中枢部門を経験すれば、後継者になれる時代ではなくなったということだ。
経済学にマージナル・マン(周辺的な人々)が変革の主体になるという仮説がある。マージナル(周辺的)な位置にいる人ほど既存の秩序や社会的価値に異議を申し立てることができるからだ。
これまで社長を出してこなかった部門から社長が登場してきたのは、マージナル・マンとして変革の主体を担うことを期待されているからにほかならない。
(文=編集部)