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ローランド上場廃止→再上場で、米投資ファンドはどのように巨額利益を得たのか?

文=編集部
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株式会社ローランドの本社(「Wikipedia」より)

 電子楽器大手のローランド(本社:浜松市)が株式市場に戻ってくる。

 東京証券取引所は11月11日、再上場を承認し、12月16日、東証1部に上場した。公開価格は1株3100円。想定仮条件(2810~3710円)の平均価格を下回る水準で決まった。3100円の売り気配でスタートし、初値は2954円。公開価格を146円(4.7%)下回った。時価総額は約807億円。2020年の新規株式公開では、公開価格を基にした時価総額で雪国まいたけ(約876億円)に次ぐ2番目の規模となった。

 ローランドは13年3月期まで4期連続で最終赤字となり抜本的な経営再建のため、14年にMBO(経営陣が参加する買収)によって東証上場を廃止した。米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズがグループを通じて株式の94.9%を持つ。再上場にあわせ、このうち1171万株(上場時発行済み株式数の42.8%)を売り出す。公募やほかの株主の売り出しはしない。初値で計算するとタイヨウは346億円のキャッシュを手にする。

 再上場後もタイヨウの保有株は最大1423万株(52.1%)残る。上場日から360日間のロックアップ(売り出し制限)がかかっているが、将来的には追加売り出しで、資金の回収を図ることになろう。ローランドの再上場は、タイヨウの出口戦略にほかならない。

プロのミュージシャンに愛用者が多い

 ローランドは1972年、大阪市で設立。電子ピアノ、電子ドラム、シンセサイザー、ギターアンプなどをつくっており、高価格帯の商品に強みがあるが、2008年のリーマン・ショックで国内外で販売が落ち込んだ。上場廃止した後はタイヨウの傘下で、マレーシア工場への生産の集約や不採算事業の整理を進め、競争力を取り戻した。

 同社の楽器はプロのミュージシャンに愛用者が多く、知名度は高い。世界中のあらゆる地域で製品を展開しており、海外売上高比率は85%に上る(19年12月期実績、以下同様)。地域別では欧州31%、北米30%、中国11%など。重要市場である米国では高いシェアを有し、電子ドラムは58%で第1位だ。製品別の売上高は鍵盤楽器27.0%、ギター関連機器26.5%、管打楽器22.5%など。20年12月期の連結決算は売上高が前期比3.2%増の652億円、純利益は51.3%増の39億円と増収増益を見込む。

 楽器業界は新型コロナウイルスの世界的な蔓延の影響を免れない。各国の感染拡大防止策により、取引先の販売店の多くが休業となり、主力のマレーシア工場も一時、操業停止した。上期(1~6月)の売上高は前年同期比3.2%減となった。オンラインでの販売促進や電子楽器への巣ごもり需要が出てきたことから販売が大幅に回復し、株式の再上場にこぎつけた。

MBOをめぐり創業者と経営陣が対立

 創業者は故・梯郁太郎氏。電子ピアノやドラム、ギター、シンセサイザーなど、世界に通用する電子楽器を数多く世に送り出した。1980年代に演奏情報を電子信号に変換して伝送するための世界共通の規格「MIDI(ミディ)」を生み出した功績が評価され、2013年、米グラミー賞のテクニカル・グラミー賞を日本人として初めて個人で受賞した。

「スタンダードがないと業界は発展しない」との信念のもと、MIDIを無料で公開した。社内外で反対意見が多数あったが、無料で公開したため一気に世界で普及。楽曲制作や音響、カラオケなどさまざまな場面で活用される世界の共通言語のひとつとなった。

 創業者の梯氏と社長の三木純一氏が対立した。三木氏ら経営陣が米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズと組んでMBOを計画していることに対し、梯氏は「MBOはタイヨウによる乗っ取りだ」と主張し、反対した。

 両者の対立は、ローランドの子会社、ローランド ディー.ジー.(DG)(浜松市、東証1部上場)の経営をめぐってだった。DGは広告・看板向けインクジェットプリンターで世界首位級の優良企業だ。ローランドはMBOに先立ち、DG株の一部をDGに売却。DGはローランドの連結決算の対象から外れた。

 14年6月27日、ローランドの定時株主総会に車イスで出席した梯氏は「MBOをやると、DG(の株)もそのままついてくる。(タイヨウにとって)こんなおいしい話はない。それ、わかっていますか」と質問。MBOではドル箱のDGを手に入れるタイヨウだけが利益を得る、「投資ファンドによる乗っ取りだ」と反対したわけだ。三木社長は「DGに関しては、タイヨウは経営権を取るつもりのないことが表明されている」と反論した。

 三木社長が代表取締役を務める特別目的会社が実施したTOBは成立。ローランドは14年10月、上場廃止となった。

タイヨウは労せずしてローランドとローランドDGを手に入れた?

 上場廃止後、買い付け会社とローランドは合併し、新しいローランドが発足した。タイヨウによるローランド買収作戦は、すべてうまくいった。買い付け会社はTOB資金416億円のうち325億円を、りそな銀行から借りた。残り91億円をタイヨウが出資した。ローランドがDG株をDGに売却した代金114億円は借入金の返済に充てられる。だから、りそな銀行は気前よく融資した。

 ローランドはDG株の20%を売却した後も、DGの議決権の25%を保有していた。DGが取得した自社株には議決権がない。タイヨウは保有していた分と合わせると、DGの議決権の割合は37%に高まり、拒否権をもつ圧倒的な大株主になったわけだ。

 DG株を一部売却したのはTOBを成功させる手段だった。稼ぎ頭のDGが連結対象から外れたことでローランドの業績悪化は必至である。TOBが成立せず上場廃止できなければ、株価の下落は避けられない。「ここはTOBに応募して高値で売ったほうが得だ」と株主は考えた。タイヨウは91億円を出資しただけで、ローランドのすべてを手に入れたことになる。創業者の梯氏は「会社をファンドに売り渡した」と嘆いた。

 タイヨウを仕切っているのは、米国でも“乗っ取り屋”の異名を持つウィルバー・ロス氏だ。日本長期信用銀行の買収でも暗躍した人物として知られている。M&Aに疎いサラリーマン社長の三木氏を手玉に取るくらい、何の造作もなかった。ローランドの再上場でタイヨウは巨万の富を手にする。

 梯氏は17年4月1日、87歳で死去した。梯氏は株主総会で「今日が私にとっての最後の総会。私の名前を創業者として今後いっさい使わないでほしい」と述べた。TOBの成立を受け、地元、静岡新聞の取材に、梯氏は「残念。こんな乗っ取られ方では会社も、一緒にがんばってきた技術者たちも気の毒だ」と悔しさを滲ませた。
(文=編集部)

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