今、ブランド米の戦国時代が到来している。そして、それは「コシヒカリ」1強時代の終焉なのかもしれない――。
コメといえば「コシヒカリ」だ。生産量・消費量がもっとも多く、全国生産量の約36%を占める。“コシヒカリの子ども”ともいえる「あきたこまち」「ヒノヒカリ」「ひとめぼれ」を含めると、生産量は全体の60%以上を占める。
しかし、“コメの王者”ともいえる「コシヒカリ」の地位が揺らいでいる。茨城県、千葉県、栃木県だけではなく、魚沼産を除いた新潟県の「コシヒカリ」の価格が低下しており、秋田県の「あきたこまち」や宮城県の「ひとめぼれ」など既存の主力銘柄も同様だ。そして、東北地方や北陸地方などコメどころの各県は、今秋から次々と“ポストコシヒカリ”を狙って新品種をデビューさせる。
いわば、ブランド米戦国時代の到来か。コメの専門家であり、「お米マイスター」五ツ星の三代目小池精米店の店主・小池理雄氏に話を聞いた。
先陣を切った「つや姫」と「ゆめぴりか」
「打倒コシヒカリ」は、コメどころであるJA全農山形の悲願だ。そのJA全農山形が1990年代前半にデビューさせたのが、「はえぬき」「どまんなか」。特に「はえぬき」はセブン-イレブンのおにぎりのコメにも採用され、「味は『魚沼産コシヒカリ』に負けていない」と自負していたとおり、食味の評価は全国トップレベルであった。
しかし、ブランド化には失敗した。今や、スーパーマーケットでは安値で売られている。そこで、山形県が2010年に満を持してデビューさせたのが「つや姫」だ。
「はえぬき」の失敗は、つくりすぎたことにある。そこで、「つや姫」では栽培を適地に絞り、栽培方法も厳格に定めた。そして、栽培基準を満たした農家が生産したコメだけに「つや姫」を名乗って流通させることを許した。つくりすぎた「はえぬき」の教訓に学び、徹底した管理手法によって生まれたのが「つや姫」なのである。
18年には、「つや姫」の弟分的存在であり、粘りと噛みごたえのある「新食感」が特徴的な「雪若丸」をデビューさせ、“姉弟”のブランド米で勝負をかける。これらに共通するのは、“主張するコメ”という点だ。小池氏は、「お寿司やおにぎりに向いているコメだと思います」と語る。
一方、北海道のホクレン農業協同組合連合会も負けてはいない。かつては「北海道のコメはおいしくない」とされてきたが、「きらら397」以降、品種改良に成功したことで生まれたのが「ゆめぴりか」である。北海道では、産地ごとに「ゆめぴりか」の味を審査し、道内でもっともおいしい「ゆめぴりか」を選出するコンテストも行われている。
ブランド米戦国時代において、山形と北海道が一歩リードといったところだろう。
「『つや姫』と『ゆめぴりか』は、ほかのコメと比べて図抜けたおいしさです。もっちりしていて、一つひとつの粒が主張している。抵抗感なく受け入れられました」(小池氏)