プリウスの成功体験
トヨタのチャネル解消に向けた試金石となったのが、2009年に市場投入されたハイブリッドカーの3代目プリウスだ。トヨタはこれを国内全系列併売にした。この戦略は成功し、全販売店で取り扱いとなった効果からプリウスの販売は好調に推移、これまでプリウスを販売していなかったチャネルの販売会社にとっても、新車市場が厳しいなかでプリウスの販売に救われたからだ。
この成功に味をしめたトヨタはその後、併売モデルを増やしてきた。現在はアクアやC-HRなど代表的な車種を中心に、6モデルが全系列併売となっている。トヨタでは、今回のカムリのように専売モデルの併売モデル化や全系列併売化を加速、専売モデルは減らしていく方針だ。実際、新型車からカムリを取り扱うことになった「トヨペット」では専売モデルだったマークXの生産を取り止める。
顧客の奪い合いの幕開け
トヨタは併売モデルを増やしていることについて、「顧客対応やサービス技術を磨き上げて、ここで買いたいという店にしてほしい」とする一方で「過疎化の問題もある。(トヨタ系販売店同士が)手を組んで協業していく取り組みも必要になってくる」(村上常務役員)と、緩やかな販売チャネル解消に向けた動きを匂わせる。
「併売モデルを増やすと、トヨタ系販売店同士で値引き合戦となり、体力のない販売店は退場を迫られる。チャネル解消による販売会社の反発をかわしつつ、自然減で国内販売網を縮小する政策だ」(自動車専門誌記者)
併売モデルが増えて、事実上チャネルの差別化が困難になっている一部のトヨタ系販売会社では不満が高まっている。販売の現場では、全系列併売モデルで「隣のネッツ店が50万円の値引きを提示している」など、顧客の奪い合いを危惧する声もあがっている。
トヨタとしては縮小傾向が鮮明な国内より、高い成長が見込まれる海外市場にヒトもカネ(投資)も集中するのは当然だ。ただ、厳しい時もトヨタを支えて長年苦労を共にしてきたオーナー系販売会社からの反発を恐れて、表面上は「母国市場は最も重要」(トヨタ)と繰り返すばかり。併売モデルの増加で収益悪化に直面したトヨタ系販売会社が、トヨタに反旗を翻す日はそう遠くないかもしれない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)