日産EVが背水の陣 充電不足でインフラも未整備 まったく売れないエコカーに未来はあるのか?
ゴーン氏はEVをエコカー(環境車)の本命と位置づけ、その開発に5000億円を投入。2010年12月、世界初のEV車「リーフ」を日米で同時発売した。
ゴーン氏は20年までに世界の自動車市場でEVが10%の占有率に達すると予想。リーフで世界市場をリードする戦略を描いていた。
日産は中期経営計画で16年までに仏ルノーと合わせ、EVを世界で累計150万台販売する目標を掲げた。だが、12年末までのリーフの累計世界販売台数は約4万9000台(うち日本国内は約2万1000台)。目標をはるかに下回った。最大の市場である米国での販売は昨年、目標の半分以下の9600台にとどまった。
「失望している」。ゴーン氏は今年1月、北米国際自動車ショーの会場でEVリーフの販売不振を問われると、こう答えた。ただ、「問題点はわかっている」とも強調。問題点とは1回の充電で走る距離の短いことと、充電インフラの整備の遅れ。そして販売価格の高さだ。
1月から米国でリーフの現地生産を始めるのに合わせて、「自らができる対策」(ゴーン氏)として新たに3万ドル(約260万円=当時の為替レート)を切る廉価モデルを投入した。
さらに、ゴーンCEOはEVのテコ入れを図るために、4月1日から日産の経営体制を刷新した。志賀俊之最高執行責任者(COO)がEV事業に直接責任をもつ体制に改め、販売やインフラ整備に全社一丸で取り組むことになった。
志賀COOは電池事業を統括するグローバルバッテリービジネスユニット、EV事業を統括するゼロ・エミッションビークル企画・戦略を直轄する。これまでは両事業とも執行役員の片桐隆夫副社長が担当していた。
EVと電池をCOOの直轄事業とすることで、日産が引き続きEV事業に本腰を入れて取り組むという姿勢を内外に示したのである。
ところが、新体制はスタートからつまずいた。新体制のもう1つの目玉として、日産系の最大の部品会社で連結子会社のカルソニックカンセイ社長の呉文精(くれ・ぶんせい)氏を日産本体のアジア地区担当の常務執行役員に起用することになっていた。
呉氏は旧日本興業銀行(現・みずほコーポレート銀行)出身。米ゼネラル・エレクトリック子会社の社長を経てカルソニックに招かれ、08年6月に社長兼CEO兼COOに就任した。就任直後に発生したリーマン・ショックで赤字に転落したカルソニックを立て直す経営改革を進め、経営手腕を発揮した。
日産本社ではアジアマネジメント(中国などアジア地域の窓口)と関係会社オペレーションを統括することが決まっていた。呉氏は3月末にカルソニックカンセイ社長を退任し、4月1日付で日産に転じると発表されていた。
ところが、呉氏は土壇場になって日産への転職を拒否。日本電産へ転身することになった。ゴーン氏の新体制は、出足から役員人事で混乱に陥ったのである。
なぜ、呉氏は日産の役員就任を断ったのか。呉氏はもともと日産の出身でない。日産に恩義があるわけでもない。カルソニックは日産の子会社とはいえ、売上高8000億円を上げる東証1部上場の大企業だ。一国一城の主から日産に転じても、日産で、ホップ・ステップ・ジャンプで出世することは難しい。
カリスマ経営者、永守重信氏が率いる日本電産は、車載モーターを次の主力事業と定めている。車載モーターで実績を上げれば呉氏は日本電産のCOOのポストもあり得る。こう判断して日本電産を選択したのでは、と推測されている。6月末の日本電産の株主総会で、呉氏はどんなポストに就くのだろうか。
EVに全社一丸で取り組むとアピールするはずだった新体制は、スタートから冷水を浴びせかけられた。
暗雲が立ち込めるのは、電池事業も同様だ。EVの需要増を見込んで大規模な設備投資に踏み切った電池業界が受けた経営的な打撃は大きい。